書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ㉞
✔︎ パイロットが有効に機能する問題空間
コントロールによって望ましい結果に帰結させるパイロットの役割が理解できたところで、
それがどのような状況下でとりわけ重要かを、明確化しておきたいと思います。
オートパイロットシステム(コーゼーション)とパイロット(エフェクチュエーション)の
両方を活用できる場合、どのような問題がパイロットでなければ対処できないといえる
でしょう。
エフェクチュエーションがとりわけ有効に問題空間には、大きく3つの特徴があると
考えられています。第一に、未来の結果に関する確率計算が不可能である「ナイトの
不確実性(Knightian uncertainty)」、第二に、選考が所与ではない、もしくは秩序だっ
ていない「目的の曖昧性(Goal ambiguity)」、第三に、どの環境要素に注目すべきか、
あるいは無視すべきかが不明瞭である「環境の等方性(Isotropy)」です。
第一の「ナイトの不確実性」については、第4章ですでに説明しました。それは経済
学者のフランク・ナイトが「真の不確実性」と呼んだ、そもそも結果についての確率
判断が不可能な状況を指しています。たとえば、既存市場の特定のセグメントのなかで、
何%の人が特定のブランドを購入する可能性があるか、といった問題であれば、市場
調査によってその発生確率を予測することが期待できるかもしれません。しかし、それ
が誰も購入したことのないユニークな新製品の場合には、何%の人が実際にそれを購入
するかを正しく予測することは不可能です。このように発生確率を数量的に表現する
ことができず予測に頼れない状況では、コーゼーションでは限界がありますが、予測が
不要なエフェクチュエーションを活用することはできます。
第二の「目的の曖昧性」は、矛盾した複数の目的を持っていたり、目的が不明瞭であっ
たりするために、秩序だった目的に基づいた首尾一貫した選択を行うことが困難な状態
を指しています。たとえば、最初から明確な機会や具体的な目的が見えているのであれ
ば、それを実現するための最適な手段を合理的に追求するコーゼーションの発想で進め
ればよいわけですが、そもそも起業家自身にとっても、そうした機会や目的が必ずしも
明確でない場合もあるでしょう。ありたい姿は見えていても、そのために何を目的と
すべきかには複数の選択肢があるでしょうし、実現すべき複数の価値が対立して両立が
困難な場合もあるでしょう。こうした状況では、目的達成のために最適な手段を追求す
るコーゼーションは困難ですが、コントロール可能な要素から着手して、世界や他者と
の相互作用を通じて目的自体を形成していくエフェクチュエーションで進むことはでき
るでしょう。
第三の「環境の等方性」とは、意思決定や行為を行ううえで、環境に存在するどの情報
が注目に値しどの情報がそうでないかが、必ずしも事前には分からないような状態を
意味します。たとえば、起業家が顧客や他のステークホルダーが求めるものを把握して、
それに適合的な意思決定をしたいと考えても、そうした情報は実に多様で、また時に
矛盾するものが含まれているため、さまざまな要素のどこに注目し、どこを無視すべき
かについて、判断できないといった事態が考えられます。
こうした問題は、これまでにはなかった新しい製品を事業化しようとする過程でも、
しばしば経験されることでしょう。たとえば、世界で初めての即席めん「チキンラー
メン」を開発した日清食品の創業者・安藤百福さんは、1970年に米国市場に進出した
際に、膨大な費用をかけて市場調査をしました。その結果は、「アメリカ人は動物性
タンパク質を好むから、でんぷん主体の麺類に成長性はない」ことを示していた一方で、
「65%の人が購入意向を示したので、商品企画や販売方法次第では売れる可能性も
ある」というどっちつかずの内容で、まったく役に立たずに失望した、というエピソー
ドが残っています。こうした状況では、環境から集めた情報に適応する形で最適なアプ
ローチを選択しようとするコーゼーションの発想では困難であり、むしろ自らの行動を
通じて実効性を高めていくエフェクチュエーションが有効です。
この続きは、次回に。
2026年1月10日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美

