お問い合せ

池上 彰のやさしい経済学2 ニュースがわかる ⑯

変動相場制でお金が「商品」になった

世界経済が混乱を始めました。

そこで混乱を避けるために相場の固定をやめよう、ということになります。

そして1973年、ついに変動相場制になります。その結果、1ドル308円が300円になり、290円、

280円と徐々に円高になっていきます。

ついにお金が商品になったんですね。お金が商品になったと言っても皆さんは何のことかなと

思うかもしれません。もともとお金というのは商品を買うためのものですよね。

ところがドルや円、ポンドなどいろいろな通貨の相場が変動するようになると、安く買って

高く売るという商売の大原則がお金にも使えるようになるわけです。

たとえば、アメリカで1万ドル持っていた人がいます。

1ドル300円のときに1万ドルを円に換えると300万円になります。

やがて1ドルが200円になったときに300万円を持っている人がこれをドルに戻せば、1万5000ドルに

なりますね。つまり、まず持っている1万ドルを円に換えて300万円にしておて、1ドルが200円に

なった段階で円をドルに戻せば1万5000ドルになるから5000ドル儲かります。

このように、お金を安く買って高く売るということができるようになったわけです。

 

外国為替市場の始まり—-お金とお金の交換も売買である。

「お金を交換してまた交換する」ことをやって儲ける。これがお金をお金で買うということです。

もともと経済の交流活動は物々交換から始まりましたよね。

ものとものを交換する。その交換する片方がお金になっただけですから、お金と商品を交換して

いることになるわけです。お金と商品を交換すること、これを「買う」あるいは「売る」と

言っているわけですから、円とドルを交換することも売買なわけです。

あなたがアメリカに旅行するために円をドルに換えると、「円売りドル買い」をしたことになる。

逆に余ったドルを日本に持って帰って円に戻せばそれは「円買いドル売り」をしたことになります。

これが世界で大規模に行われているのが外国為替市場なのです。

 

なぜこれほどの円高になったのか

自動車会社、船会社、電機メーカーなど、日本のさまざまな企業がアメリカにものを輸出する。

そのたびごとにドルを受け取りその大量のドルを円に換えるわけです。

ドルを円に換えたいと円に対する需要が高まり円の値段が上がっていきました。

こうやってじりじりと円高が進んで行ったのです。

 

海外でものが売れるほど円高に苦しむ日本企業

円高になると何が起きるのか。

円高になると輸出産業は儲けが少なくなります。

このように日本の輸出産業はジレンマに陥っていきました。

一生懸命いいものをつくって、アメリカに輸出すれば輸出するほど、大量のドルを円に換えることに

なるので円高になっていく。円高になれば輸出しても入ってくる円は減り利益が減ってしまう。

だから利益が上がるようにもっとコストを下げて、いいものをつくってアメリカに輸出する。

売れるとまた円高が進む。この繰り返しによる悪循環が起きてしまったのです。

 

なぜ、円高ばかりが大騒ぎになるのか?

日本経済がこのような悪循環に陥ったため円高で大変だ大変だという人がいる一方で、

輸入業者にとっては円高は大変ありがたいことです。

円の価値が上がるわけですから、海外のものを日本円でしますよね。

安く買うことができるのです。お店で円高還元セールをやっていたりしますね。

円高になって困る産業がある一方で、大喜びする産業もあるんですね。

外国為替というのは、それぞれの立場によっていい悪いは違ってくるのだということです。

円高になって大変だというニュースが目立つので、皆さんも円高=悪いと言うイメージがあると

思います。輸出産業にとってはそのとおりですが、輸入産業にとってはうれしいことなのです。

ではどうして円高で大変だと大騒ぎをするのか。

企業というのは自分の産業にとってマイナスのことが起きると、大変だと大声を出して政府に

助けを求めます。反対に、儲かっている産業は、儲かって儲かってしかたがありませんなんて

言ったら反感を買うだけですから、黙っています。

大声を出している方がニュースになりやすいということです。

 

日本の輸出産業低迷は多くの企業にとってマイナスである

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

円高で日本人は金持ちになった?

かつて1ドル=360円だったのが今では90〜100円台になっています。

1970年代から2010年までのあいだに円を持ち続けていたら、ドルで言えば4倍近くに増えた

ことになります。それだけ日本国民の富は増えたということです。

円高には、このようにさまざまな側面があります。

そういう観点でこれから円高のニュースを見ていってもらえればと思います。

 

円高を食い止める手段—政府・日銀による為替介入

こうして円高が進んでしまった時によく行われるのが、政府・日銀による為替介入です。

ふだん円とドルは自由に外国為替市場=マーケットで売買され、自然に値段が決まっています。

そこにあえて政府が乗り出し意図的に値段を上げ下げする、これが為替介入です。

「政府・日銀による」という言い方をよくしますが、実際にやるのは政府で、日銀は単に

命令を受けて売買の現場で作業をするにすぎません。

実はこの為替介入はどこか1つの国だけでやっても、なかなか効果が上がりません。プラザ合意の時は

アメリカ、日本、イギリス、西ドイツ、フランスなど世界の先進国がドルが安くなるように

みんなで一緒に為替介入をやりました。これを「協調介入」と言います。

各国でうまくタイミングを合わせれば、協調介入はそれなりに効果があります。

でも円高を何とか止めようと行ったのは、日本だけの「単独介入」でした。

円安にしようとして大量に円を売ってドルを買い、政府はドルを大量に保有しました。

でもやっぱり円高に進んでいく。ということは政府が買ったドルは値打ちが下がっていくと

いうことになりますね。これで日本政府はたくさんの損害を抱え込んでしまったのです。

 

為替介入:為替相場を安定的に維持するため政府や中央銀行が外為市場で外貨を売ったり買ったり

すること。

 

 

この続きは、次回に。

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