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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑭

第6章   なぜ大企業は革新的イノベーションについていけないのか

 

前章では、企業・組織がイノベーションを起こすための視点として、「両利きの経営」を紹介しました。

しかし、企業が常に「イノベーションを起こす」側にあるとは限りません。

新たな革新的なイノベーションを生んだ競合他社に、対抗する立場になることも多いからです。

そして多くの場合、企業はなかなか外部の新しいイノベーションに対応できません。

この点を考える上で有用な視点が、組織の知を「コンポーネントな知」と「アーキテクチュラルな知」

に区別することです。

本稿では、経営学で議論される「知の種類」についての知見を紹介しながら、イノベーションが

起こせなくなる組織と、常にイノベーションを起こし続ける企業の違いを議論していきましょう。

 

✔️ 部分的な知、組み合わせの知

 

「コンポーネント(部分的)な知(Component Knowledge)」とは、製品・サービス開発における

「特定部分の設計デザイン」についての知識です。

ヘンダーソン=クラーク論文ではエアコンの例が取り上げられています。

例えば室外エアコンの場合、それを構成する室外ファン、モーター、コンプレッサー、電磁弁などは

「部品」であり、その部品ごとの設計デザインの知識が「コンポーネントな知」となります。

他方で、それらの部品を組み合わせて一つの最終製品にするための知が、「アーキテクチュラルな

知(Architectural Knowledge)」です。

この言葉が直感的でなければ、「組み合わせデザインの知」と理解してください。

例えば一見似たようなエアコンでも、室外ファン、モーター、コンプレッサーなどをどのように

組み合わせてまとめあげるかで、その性能や特性が変わってくる、というわけです。

通常、業界で新しい製品が生まれてからしばらくは、部品同士の最適な組み合わせについて

試行錯誤が続きますから、企業に主に求められるのは「アーキテクチュラルな知」になります。

しかし時間がたつにつれ、組み合わせについて業界で標準化が進んでいきます。

これを「ドミナント・デザイン」と呼びます。

一旦ドミナント・デザインが確立されると、その後は部品それぞれの機能を高めるための

「コンポーネントな知」が重要になっていきます。

 

✔️ 組織構造は、ドミナント・デザインに従う

 

ここで重要なのは、製品やサービスのドミナント・デザインが確立するにつれ、企業の組織構造や

ルールもそれに順応していくことです。

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

したがって既存の大企業ほど、その後出てくる「新しい組み合わせ」によるイノベーションに

対応できないのです。すなわち、革新的イノベーションに対応できないのです。

すなわち、革新的イノベーションに対応できないのは、技術問題以上に、ドミナント・デザインに

端を発する組織問題なのです。

ドミナント・デザインはある程度の規模以上であれば、どの企業も抱える本質的な問題といえます。

ヘンダーソン=クラーク論文で紹介されているのは、1950年代にソニーが米国でRCAを

駆逐した例です。

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

✔️ 「アーキテクチュラルな知」を高めるには

 

トランジスタラジオの例のように、イノベーションの源泉の一つは「組み合わせ」を変えることに

あります。「知と知の組み合わせ」の重要性は、前章でも述べました。

多くの方は、イノベーションと聞くと、なんだか大幅な技術革新を想起しがちです。しかし、

このような部品(部分)ごとの変化は小さくとも、全体の組み合わせを変えることで、革新的な

イノベーションが起き得るのです。そして、組織構造の既存のドミナント・デザインが染み付いている

大企業がこの変化に対応できないのは、ある意味当然といえます。

「大企業なのに外部イノベーションになぜ対応できないのか」とよく議論されますが、

大企業だからこそ対応できないのです。逆に言えば、このような企業だからこそ新たな

「アーキテクチュラルな知」、すなわち組み合わせをつくり出す知が促される組織作りが

求められるといえます。

この点をさらに探求したのが、前述の論文の著者の一人であるレベッカ・ヘンダーソンが、

加ブリティッシュ・コロンビア大学のイアン・コックバーンと1996年に「ストラテジック・

マネジメント・ジャーナル」(SMJ)に発表した論文です。

ヘンダーソンらは、世界中の大手医薬品メーカー10社が1975年から85年までに実施した3210の

研究プログラムを統計分析しました。そしてその結果、やはり「アーキテクチュラルな知を促す組織」の

特性を持つ研究プログラムほど、特許件数などで見たイノベーションの実績が高くなったのです。

この論文で発見された、医薬品産業における「アーキテクチュラルな知を高める組織特注」

は二つです。

それは、(1)研究者が会社の枠を超えた広範な「研究コミュニティー」で知識交換することが

評価される組織であること、そして(2)社内でも分野の垣根を幅広く越えて情報を交換することです。

これらの発見は、前章で紹介した「知の探索」と関連していると解釈することもできます。

前章では、「イノベーションの源泉は知と知の組み合わせである」こと、他方で「企業は

『身近な知』だけを活用しがちなので、イノベーションを起こすには自分たちの知らない

遠い分野への『知の探索』が重要である」ことを述べました。

ヘンダーソンとコックバーンが発見した「アーキテクチュラルな知を高める組織特性」の(1)は、

まさに「知の探求」そのものです。

やはり知の探索ができる人がいる組織は、イノベーションを生み出しやすいのです。

さらに(2)は、「企業内での部門を超えた知の探索」の重要性を示唆しています。

先らも述べているように、企業は製品・サービスのドミナント・ロジックに支配されるため、

自部門と関連のない部門との交流が減っていきます。逆に言えば、分野の垣根を超えた幅広い

情報交換による知の探索が企業内でできれば、新しい組み合わせを生んで行くことができるのです。

 

 

この続きは、次回に。

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