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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉑

第9章   「ブレスト」のアイデア出しは、実は効率が悪い!

 

先のPart3(第5章〜7章)では、イノベーションというキーワードを中心に、どうすれば企業が

新しい知を生み出せるかについて、先端の経営学の知見を紹介してきました。

その知を生み出す手段として、よく使われる手段の一つが「ブレーン・ストーミング」

いわゆる「ブレスト」です。

複数の人が共にアイデアを出し合うブレーン・ストーミングは、ビジネスでは新製品企画、

キャンペーン企画など「新しいアイデア出しの場」としてよく使われています。

みなさんのなかにも、ブレストをする方は多いかと思います。

ブレストの目的が「アイデアを出す」ことにあるのは、みなさんの共通認識でしょう。

ところが世界の経営学研究では、「ブレストでアイデアを出すのは、実効率が悪い」という

結果が得られています。まるで本末転倒な印象ですが、しかしこれは、ブレスト研究者の間では

よく知られたことなのです。

なぜブレストはアイデアを出すのに、むしろ効率が悪いのでしょうか。

本章は、「組織に求められるブレーン・ストーミングのあり方」について、世界の経営学の

知見を紹介していきましょう。

 

✔️ ブレストではアイデアを出せない

 

「アイデア出しが目的のはずのブレストが、アイデアを出すのに効率が悪い」ことは、

「プロダクティビリティー・ロス」という矛盾として、経営学や社会心理学では古くから

知られてきました。

このテーマに関する研究の多くは、実験手法からその傾向を見つけています。

この手の研究では、例えば数十人を集めて5人くらいずつの組をつくり、「5人が顔を突き合わせて

ブレストする組」と「5人が個別にアイデアを出して最後にアイデアを足し合わせる組」に分けて、

それぞれから出てきたアイデアを比較します。

そしてこれまでの多くの研究で、前者よりも後者のほうが、よりバラエティーに富んだ

質の高いアイデアが多く出ることが示されているのです。

 

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✔️ ブレストはなぜ失敗するのか

 

なぜブレストではプロダクティビリティー・ロスが起きるのでしょうか。

経営学(および社会心理学)では、主に二つの説明がされています。

第一は「他者への気兼ね」です。

複数人だと、どうしても「自分のアイデアを他の人はどう評価しているか」が気になります。

もちろんブレストでは「他人の意見を否定しない」ことが基本ルールなのですが、

それでもやはり人は他人の評価を気にする者です。

この気兼ねにより、参加者から思い切った意見が出にくくなります。

さらに、前述のミューレンたちのメタ・アナリシス研究からは、この傾向が特に「権威のある人」が

ブレストに参加すると顕著になることも示されています。

みなさんも、ブレストと称して会議をしながら、同席した本部長に気兼ねして意見が出せず、

結局本部長だけがしゃべり続ける、という場面に遭遇したことがあるかもしれません。

第二の理由は、「集団で話すときは思考が止まりがち」なことです。

個人でアイデアを考えている限りは、思考はいくらでも飛躍させられます。

しかしブレストでは相手の話も聞く必要があり、その間は自分の思考は止まってしまいます。

「せっかく何か思いつきかけていたのに、他人の話が思考をさえぎった」という経験のある方は

多いのではないでしょうか。

これが、全体のロスを生むのです。

もちろん複数人のアイデアを組み合わせることは、前章で述べてきたように、知と知の

新しい組み合わせを生みますから、それは創造性の源泉でもあります。

しかし、そのメリットを上回ってプロダクティビリティー・ロスが深刻な場合は、

ブレストではアイデアが出にくくなるのです。

では、みなさんがブレストをすることは、何の意味もないのでしょうか。

興味深いことに、世間で「クリエーティブ」と呼ばれる組織がいまだにブレストを重視して

いるのも事実です。では彼らは、なぜ効率が悪いはずのブレストをするのでしょう。

この疑問に正面から取り組んだのが、米スタンフォード大学(当時)の二人の経営学者、

ボブ・サットンとアンドリュー・ハーガドンです。

 

✔️ 世界最高のクリエーティブ集団のブレスト

 

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✔️ ブレストは組織の記憶力を高める

 

その役割は六点にも及ぶのですが、本章のテーマに関連して特に重要なのは以下の二つです。

 

第一に、IDEOでのブレストには「組織(IDEO)全体の記憶力を高める」効果があることです。

IDEOには、世界中から多様な業界・製品デザインの依頼が来ます。

この多様な業界・製品の知の組み合わせこそが、IDEOの想像力の源泉といえます。

しかしそのためには、それらの多様な情報・知が組織内で蓄積され、共有される必要があります。

ここで注目したいのが、前章で取り上げた「トランザクティブ・メモリー」です。

トランザクティブ・メモリーは、組織学習研究の重要なコンセプトです。

その骨子は「組織に重要なのは、組織の全員が同じことを知っていることではなく、

『組織の誰が何を知っているか』を組織の全員が知っていることである」というものです。

ヒト一人の記憶力には限界があるのですから、組織全体に蓄積されている知全体を各自が

覚えるのは非効率です。そうではなく、「誰が何を知っているか」だけを共有しておき、

ある知識が必要になったときには、すぐ「その知を持っていると思われる人」に聞けばよい、

というのがトランザクティブ・メモリーの考え方です。そして、前章で述べたように、

トランザクティブ・メモリーを高めるには、顔を突き合わせての直接交流が重要である

可能性が、複数の研究で指摘されています。

アイコンタクトや身振り手振りを交えてブレストをしたり、あるいは(デザイン会社なら)

製品のプロトタイプなどに共に触れながらブレストをしたりするほど、知らずしらずのうちに、

「この製品の知識のことは彼に聞けばよい」といったことが組織全体で共有化されていくのです。

 

 

この続きは、次回に。

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