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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉓

10章 「失敗は成功のもと」は、ビジネスでも言えるのか

 

この第10章では「組織学習」編の最後として、「組織は失敗経験と成功経験のどちらから

学ぶか」という興味深いテーマについて、最先端の経営学の知見を紹介したいと思います。

私たちはよく「失敗は成功のもと」という言葉を使います。

失敗をすることが、その後の成功につながるという考え方です。

逆に「失敗の原因になるのは、それ以前の成功体験である」ともよく言われます。

例えば、セブン&アイ・ホールディングス会長の鈴木敏文氏などは、「成功体験こそが

次の失敗につながる」という成功経験のリスクをよく強調されます。

ヤマト運輸の故・小倉昌男氏も、著書『小倉昌男 経営学』(日経BP社)の中で、成功体験の

リスクを強調されています。

 

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✔️ 組織が学習した先にあるもの

 

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✔️ 世界の経営学で「最優秀賞」候補になった論文

 

この研究でマドセン=デザイが対象にしたのは、なんと、宇宙軌道衛星ロケットの打ち上げに

ついての、成功体験・失敗体験です。

 

第一に、軌道衛星ロケットの打ち上げは、「成功」と「失敗」の区別がつきやすいからです。

うまく衛星が地球の軌道に乗れば成功ですし、「衛星が軌道に乗らない」「そもそもロケットが

飛ばない」など、様々な理由でそこまでたどりつかなければ、失敗です。

そして第二に、意外にも、軌道衛星ロケットの打ち上げは失敗が多いのです。

彼らは、各打ち上げ機関が新しくロケットを打ち上げるまでに経験した「打ち上げ成功」と

「打ち上げ失敗」の数を集計しました。

そして、それら「成功体験の数・失敗体験の数」と、各機関の「新しい打ち上げ」が

成功する確率との関係を統計分析したのです。

そしてその結果、以下のようなことが明らかになってきました。

 

発見1:一般に成功体験そのものは、「その後の成功」確率を上げる

 

まず、打ち上げの「成功体験」と「その後の打ち上げ失敗か区立」の関係は、マイナスになりました。

「成功すればするほど、その後も失敗しなくなる(=成功する)」わけです。

すなわち「組織は成功体験から学んで、パフォーマンスを上げる」ということですから、

冒頭に述べた「成功体験はむしろ足を引っ張る」という見方は間違っている、ということに

なります。(しかし実は必ずしもそうではないことを、後で述べます)

 

 

発見2:とはいえ、大事なのは成功体験よりも失敗体験

 

次に、打ち上げの「失敗体験」と「その後の打ち上げ失敗確率」の関係はどうだったかというと、

実はこれもマイナスになりました。

すなわち、組織は失敗からも学習して、その後のパフォーマンスを高められるのです。

だとすればポイントは、「成功体験と失敗体験のどちらのパフォーマンス向上効果の方が

大きいのか」ですが、マドセン=デサイの分析では、それは「失敗体験の方である」という結果に

なったのです。

 

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✔️ 成功すると「サーチ行動」をしなくなる

 

なぜ成功体験よりも失敗体験の方が、その後のパフォーマンス向上に貢献するのでしょうか。

マドセン=デサイは、それを組織の「サーチ行動」の理論に求めます。

世界の経営学では、組織学習に最も重要な基本原理の一つが「サーチ行動」だというのは、

学者のコンセンサスになっています。

これはノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモンの時代から、認知科学分野で

打ち立てられてきた考えです。

組織というのは、サーチ行動をすることで学習していきます。

サーチ行動とは、一言で言えば「新しい考え方・アイデア・知見・情報などを常に探す」ことです。

学習するということは、常に経験を通じて新しい考えや情報を自分に取り込んでいくことです。

そして一般に、なるべく幅広くサーチ行動をすればするほど、「広い世界」の中から多様な

情報を取り込み、また「広い世界」での最初からお読みいただいている方にはお分かりでしょうが、

第5章で紹介した「知の探索」は、サーチの概念が基になっています。

そして組織は、失敗を経験すればするほど「これまで自分がしてきたことは、正しくない

のではないか」と考えるので、新しい知見を求めてサーチ行動をするようになります。

したがって長い目で見ると学習効果が増して、成功確率が上がってくるのです。

逆に成功体験を重ねると、「自分のやっていることは正しい」と認識しますから、

いつの間にかサーチ行動をとらなくなるのです。

さて、ここで一つの疑問が生じます。

もしサーチ理論が正しいなら、成功した組織はサーチ行動をとらなくなるのですから、

「成功体験は、組織のパフォーマンスを下げていく」はずです。

しかし発見1にあるように、このマドセン=デサイの研究では「一般に成功体験は(失敗体験

ほどではないが)、その後の組織パフォーマンスを高める」という結果になっているのです。

この矛盾をどう説明すればいいのでしょうか。

実はこの矛盾を解消する分析結果も、マドセン=デサイは得ているのです。

それは、以下のような発見です。

 

発見3:組織に失敗体験が乏しい場合に限り、その組織の成功体験はむしろその後の失敗確率を

高める(パフォーマンスを下げる)

 

すなわち「全般的には成功体験は良い効果をもたらす」(発見1)のですが、しかし「失敗体験が

乏しいまま、成功だけを重ねてしまうと、むしろその後は失敗確率が高まっていく」(発見3)のです。

逆に言えば、これは発見1のサンプルには「失敗経験を十分に重ねてから、その上で成功を

重ねた組織」が含まれていたことを示唆します。

そしてこういう組織は、むしろその後の成功確率が著しく高まるため、その効果がサンプル全体を

引っ張って、発見1のような結果が得られていると解釈できます。

 

 

この続きは、次回に。

 

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