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Part6  働く女性の経営学

 

第13章  日本企業に、ダイバーシティー経営は本当に必要か

 

本章と次章では、日本でも最近注目度が高い「ダイバーシティー」「女性・外国人の活用」に関連する、

先般の経営学の知見を紹介していきましょう。

特に最近、「ダイバーシティー経営」という言葉がよく聞かれます。

ダイバーシティーとは「人の多様性」のことで、ダイバーシティー経営とは、「女性・外国人などを

積極的に登用することで、組織の活性化・企業価値の向上を図る」という意味で使われるようです。

実際、女性・外国人を積極的に登用する企業は今注目されていますし、日本政府もこの風潮を後押し

しているようです。

ところが、世界の経営学では、上記の通念とは全く異なることが主張されています。

すなわち「性別・国籍などを多様化することは、組織のパフォーマンス向上によい影響を及ぼさない

ばかりか、マイナスの影響を与えることもある」という研究結果が得られているのです。

なぜ「ダイバーシティー経営」は組織にマイナスなのでしょうか。何が問題で、では私たちはどのような

組織づくりを目指すべきなのでしょうか。

今回は、世界の経営学研究で得られている「人のダイバーシティーが組織にもたらす効果」についての

知見を紹介していきましょう。

 

✔️ 二種類のダイバーシティー

 

しかし近年になって、学者の間でも大まかな一つの合意が形成されてきた、というのが私の認識です。

それは「ダイバーシティーには二つの種類があり、その峻別が重要である」ということなのです。

その二つとは「タスク型の人材多様性」と「デモクラフィー型の人材多様性」です。

「タスク型の人材多様性(Task Diversity)」とは、実際の業務に必要な「能力・経験」の多様性です。

例えば「その組織のメンバーがいかに多様な教育バックグラウンド、多様な職歴、多様な経験を持って

いるか」などがそれに当たります。

他方、「デモグラフィー型の人材多様性(Demographic Diversity)とは、性別、国籍、年齢など、その人の

「目に見える属性」についての多様性です。

そして近年の経営学では、この二つの多様性が、組織パフォーマンスに異なる影響を与えることが

わかっているのです。

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

✔️ 「研究の研究」で得たダイバーしてぃーの事実法則」

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

彼らのメタ・アナリシスから確認された事実法則のうち、本稿で重要なのは以下の二つです。

 

法則1:ジョシたちの分析、ホーウィッツたちの分析のどちらとも、「タスク型の人材多様性は、組織

パフォーマンスにプラスの効果をもたらす」という結果となった。

 

法則2:「デモグラフィー型の人材多様性」については、ホーウィッツたちの分析では「組織パフォー

マンスには影響を及ぼさない」という結果となった。

さらにジョシたちの研究では「むしろ組織にマイナスの効果をもたらす」という結果になった。

このように、過去の研究を集計したメタ・アナリシスから得られた事実法則では、組織に重要なダイバー

シティーとはあくまで「タスク型の人材多様性」のことであり、性別・国籍・年齢などの多様性は組織に

何の影響も及ぼさないどころか、場合によってはマイナスの影響を及ぼすこともあり得る、という結論に

なったのです。

 

✔️ 多様性を仕分けよ

 

なぜこのような結果になるのでしょうか。

経営学者たちの間では、以下のような理論的説明がなされています。

まず、「タスク型の人材多様性」の効用は明らかでしょう。ここからは企業に不可欠な「知の多様性」が

期待できるからです。

第5章や第6章で述べたように、これまでの経営学の研究蓄積で、「イノベーションの源泉とは知と知の

組み合わせ」であり、そのためには「組織の知が多様性に富んでいること」が重要だと分かっています。

こうした視点からバラエティーに富んだ人材がいるほど、組織の知の多様性を高めるのです。

「タスク型の人材多様性」は、組織が新しいアイデア、知を生み出すのに貢献するのです。

これに対して、「デモグラフィー型の人材多様性」を説明する代表的な理論は、社会分類理論(Social

Categorization Theory)と呼ばれる、社会心理学の理論です。

同理論によると、組織のメンバーにデモグラフィー上の違いがあると、同じデモグラフィーを持つ

メンバーを「分類」する心理学的な作用がどうしても働き、同じデモグラフィーを持つ人との交流だけが

深まります。結果として「組織内グループ」ができがちになってしまいます。

そして、いつのまにか「男性対女性」とか「日本人対外国人」といった組織内グループの間で軋轢が

生まれ、組織全体のコミュニケーションが滞り、パフォーマンスの停滞を生むのです。

このように、世界の経営学で分かっているのは、組織に重要なのはあくまで「タスク型の人材多様性」で

あって、「デモグラフィー型の人材多様性」ではない、ということです。

 

私がここで申し上げたいのは、「ダイバーシティー経営ブーム」のご時世で、「女性・外国人が加わる

ことが、そのまま組織の活性化につながる」と安直に考えてしまうことのリスクです。

そういう論説の中には、「タスク型」と「デモグラフィー型」の人材多様性を混同している部分が

あるようにも見えます。

 

 

 

この続きは、次回に。

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