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✔️ 日本に必要なのはトランスフォーメーショナル型?

 

一方で、「トランスフォーメーショナル型のリーダーシップが望ましいかは条件付きである」という

主張もあります。

「トランスフォーメーショナル型のリーダーシップは、『不確実性の高い事業環境』下にある企業に

おいてはその業績を高める」のに対し、「事業環境が安定している(不確実性が低い)ときには、むしろ

企業業績を押し下げる」という結果になったのです。

日本でも、例えばソフトバンクの孫正義氏や日本電産の永守重信氏のようなカリスマリーダーと

呼ばれる方は、多くが創業経営者です。

すなわちまだ企業として若く、事業環境の不確実性も高いから、リーダーのカリスマ力が必要と

いえます。逆に、既に成熟している企業や、何らかの理由で事業環境が安定している企業なら、

このようなリーダーを抱えることはむしろもろ刃の剣になりかねない、という結果なのです。

とはいえ、近年の日本の事業環境は、全般的に不確実性が高まっている可能性は高いといえます。

また仮にそうでなくても、これからの日本では、起業したり、新規事業を起こしたりするような

リーダーが求められていることは間違いありません。

そしてこういった新規事業は、当然ながら不確実性が高くなります。

そう考えれば、やはりこれからの日本に望まれるのは一般にトランスフォーメーショナル型の

リーダーといえるのではないでしょうか。では、そのトランスフォーメーショナル型リーダーには、

どのようなタイプの人がなりやすいのでしょうか。もちろん、本人が持っている資質、人生経験など

色々な背景があるのでしょうが、近年の経営学で明らかになりつつある一つのファクターは実は

「性別」です。しかも、男性よりも女性のほうが、トランスフォーメーショナル型のリーダーの資質を

身に付けやすい、という結果なのです。

 

✔️ トランスフォーメーショナル型になりやすいのは女性

 

性差とリーダーシップについて多くの研究に携わっているのは、米ノースウェスタン大学の心理学者

アリス・イーガリーです。

イーガリーたちは、45本の研究を集計して分析をしました。

その結果、まさにこれまでの研究で組織成果を高めるとされた「トランスフォーメーショナル型の4資質」と

「トランザクショナル型のコンティンジェント・リワード資質」で、女性が男性を上回ったのです。

イーガリーはソーシャル・ロール(社会での役割)理論を使って、この結果を説明しています。

この理論の骨子は、「一人の属性には、一般に社会で持たれている『ステレオタイプなイメージ』が

あり、人々はそれを意識した行動をとる」というものです。

例えばリーダーなら社会で持たれているステレオタイプな「リーダー像」があって、本人も周囲も

それを行動し、女性には世間このステレオタイプな「女性像」があって、本人も周囲もそれを意識して

行動する、ということです。

 

✔️ 女性は矛盾した「役割」を期待される

 

世間一般に持たれているステレオタイプなリーダー像とは、「自分の意思を強く示し」「時には手段を

選ばず、独善的に目的を達成する」と言った、「力強い、男性的な」イメージではないでしょうか。

実際、イーガリーが2011年に3人の研究者とPBに発表した別のメタ・アナリシス分析結果では、一般に

「リーダー」にはこのような男性的なイメージが期待されやすいことを明らかにしています。

一方、世間のステレオタイプな女性像とは、「優しい」「独善的でない」「自己主張がそれほど強く

ない」といった、ソフトなもののはずです(本当に女性がそうなのかは別の話で、あくまでステレオ

タイプなイメージです)。

 

このような、ステレオタイプなリーダー像はそもそも男性像に近く、ステレオタイプな女性像とは

ギャップがあるのです。

したがってリーダーになった女性は、そもそも周囲から「力強いリーダー像」と、それとは真逆の

「やさしい協調的な女性像」という、二つの正反対の期待にさらされるのです。

心理学ではこれをロール・インコングリティー(Role Incongruity、期待されている役割の不一致)と

いいます。

仮にこの状況で、女性リーダーが「女性的なイメージ」軽んじ、男性的な自己主張の強いリーダー

シップ・スタイルだけをとったらどうなるのでしょうか。

本人がどう思うかはともかく、それは「ステレオタイプな女性像」も期待している周囲からは、

「あの人は自己主張が強すぎる」という風に映り、周囲からの評価は下がっていくのです。

実際、「男性的なリーダーシップ・スタイルを取る女性リーダーは、周囲からの評価が低くなる」と

いう結果は、実験などを使った複数の研究で示されています(例:米ラトガース大学のローリー・ラド

マンらが2001年「ジャーナル・オブ・ソーシャル・イシューズ」に発表した論文など)。

 

✔️女性は啓蒙型の資質を身に付けやすい

 

しかしながら、実はリーダーとなった女性の多くは必ずしもそうならない、というのがイーガリーの

主張です。なぜなら彼女たちは、むしろこの「ステレオタイプな二つのイメージのギャップ」を克服

するための手段として、男性よりもトランスフォーメーショナル型のリーダーシップをとろうとする

からです。

トランスフォーメーショナル・リーダーシップは、先のステレオタイプな「自己主張の強いリーダー

像」とは異なります。

既に触れたような、それは前向きで楽観的なビジョンを示し、新しいアイデアで部下のやる気を刺激し、

そして部下一人ひとりをきちんとケアするような、男性的でもあり女性的でもあるリーダーシップです。

さらに、部下の努力にきちんと報いるようなトランザクショナル型のコンティンジェント・リワード

資質も、女性的なイメージに近いかもしれません(少なくとも男性的とは言えないのでしょう)

 

ここまで解説してお分かりいただけたと思いますが、イーガリーの主張は「そもそも女性全てが生まれ

持ってリーダーに向いている」と言いたいのではありません。

彼女の主張は「女性がリーダーになる過程では、ステレオタイプなリーダーシップ・スタイルを身に

つけやすい」ということです。

そして、そのようなスタイルをとるリーダーのほうが一般的に組織成果を高めやすい、ということなの

です。

 

✔️ これからの女性リーダーの登場に期待

 

最近は日本でも女性のビジネスリーダーが注目されるようになりました。

 

※   省略致しますので、購読にてお願い致します。

 

私は、さらに日本で多くの女性リーダーが登場することを期待しています。

それは社会的な問題うんぬん以上に、日本にこれから望まれるのがおそらくトランスフォーメーショ

ナル型のリーダーで、女性がそうなりやすい可能性が高いからです。

そして、もし本コラムをご覧の方の中に将来のリーダーを目指している女性がいたら、ステレオタイプな

「男性的なリーダーシップ」ではなく、ぜひトランスフォーメーショナル・リーダーシップを意識して

みてはいかがでしょうか。

 

 

この続きは、次回に。

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