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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㊴

✔️ 婿養子の同族企業は利益率も成長率も高い

 

日本の同族企業の婿養子の効果について精緻な分析をしたのは、先のメロトラと沈氏たちが2013年に

JFEに発表した論文です。

この論文ではまず、そもそも「婿養子」という仕組みが日本特有のものであることが解説されています。

通常、海外では「養子」と言えば、子供(幼児)を養子にすることです。

それに対して日本では、2000年に8万790件登録された「養子」のうち、「子供の養子」はわずか

1356人で、なんと残りの7万9434件(98%)は「大人の養子」なのだそうです。

次に、メトロラ・沈たちは1961年から2000年までの長期にわたる日本の上場企業の所有形態を精査

しました。その結果、例えば2000年時点の日本の上場企業1367社のうち、約3割が同族企業である

ことが示されています。

そして所有・経営形態と業績の関係を統計分析すると、婿養子が経営者をしている同族企業は、

 

(1)  血のつながった創業家一族出身者が経営する企業よりも、ROAが0.56ポイント高くなり、

(2)  創業家でも婿養子でもない外部者が経営をする企業よりも、ROAが0.90ポイント、成長率が

       0.50ポイント高くなる、という結果を得たのです。

 

✔️ ムコ養子同族企業の業績が良いのは理論的に当然

 

なぜ「婿養子同族企業」は業績が良くなるのでしょうか。

このメトロラ・沈たちの研究はデータ分析に注力していますので、理論的な説明にはそれほど紙幅を

割いていません。したがってここからはあくまで私の解釈ですが、先の理論的な説明を見れば、その

答えは明らかではないでしょうか。

すなわち、先ほど説明した「同族企業のトレードオフ」を婿養子はきれいに解消してくれるのです。

繰り返しですが、同族企業は「もの言う株主」がいたり、ブレのない長期的な経営がしやすかったり、

という意味ではプラス面も大きいのです。

他方でその決定的な課題は、資質に劣る経営者を創業家から選んでしまうリスクでした。しかし、

それが婿養子なら話は別です。なぜなら通常、婿養子は長い時間をかけて外部・内部から選び抜かれた

人がなる場合が多いからです。

他方で、その人は創業家に「婿」として入って創業家と一体になりますから、株主(=創業家)と同じ目線で、

ブレのない経営ができるのです。つまり、先の三つの説明でいえば、婿養子は(1)と(2)のプラス面を維持

したまま、(3)のマイナス面を解消できるのです。まさに「同族企業のいいとこ取り」です。

 

私は「婿養子の同族企業経営者なら絶対成功する」と言いたいわけではありません。

あくまで「理論的に説明がつき、そして実際に婿養子同族企業がいいという、統計分析の結果が出て

いる」ということです。

実際、日本でも著名経営者に婿養子は少なからずいます。

その代表格は、現在海外事業を中心に躍進中のスポーツメーカー、アシックスの尾山基氏でしょう。

尾山氏は日商岩井出身で、創業家の鬼塚喜八郎氏の娘婿です。

他にも、松井証券の松井道夫氏も婿養子ですし、スズキ自動車の鈴木修氏も婿養子です。

 

✔️ 同族企業の後継者に求められること

 

最後に、婿養子以外の後継者を考えている同族企業に、何か示唆はあるのでしょうか。

私は、これまで述べた説明から理論的に得られる示唆も有用だと考えます。

第一に、繰り返しですが、同族にはプラス面があるということです。

日本では「同族」という言葉だけで、ウエットな印象が強いかもしれません。

確かに、スキャンダルなどネガティブな騒動が起こったときにどうしても、同族の悪い面が目立って

しまいます。しかしこれは、メディアでそういう面から取り上げられやすいことを考慮すべきでしょう。

本稿で述べたように、客観的に分析してみると、同族企業は業績も悪くないのです。

したがって、創業家から後継者を出すことを積極的に否定する必要もないはずです。重要なのは、やはり

先の説明(3)にあったように、資質に劣る経営者を選んでしまうリスクと、株主である創業家が身内には

甘くなりがちというリスクを、きちんと認識することでしょう。

月並みですが、やはり「厳しい目で後継者を鍛える」という当たり前のことが決定的に重要といえます。

第二に、企業内外から婿養子でない人材を経営者に登用する場合は、創業家とのビジョンの共有が何より

重要と言えます。

外から採用する人材は、能力は十分かもしれませんが、その人が創業家と一枚岩になっていないと先の

同族企業のメリット(1)と(2)が損なわれてしまうからです。特に外部から経営者を探す時は、何よりも

創業家をリスペクトできる人材であるべき、ということがいえるはずです。

実際、近年はLIXILやカルビー、サントリーなど、オーナーは同族だけれど、外部からプロ経営者を

招聘するというパターンが増えてきています。

この場合、プロ経営者の手腕がとかく注目されますが、それ以上に重要なのは創業家とプロ経営者が

オーナーとビジョンを擦り合わせてエージェンシー問題が解消できるなら、婿養子以上の効果が期待

できるかもしれません。

 

 

この続きは、次回に。

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