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IoTビジネス入門 ⑪

■   IoTによって変わる私たちの「消費」

 

家ナカのIoTは、「消費」そのものも変えます。冷蔵庫を例に、詳しく見ていきましょう。

 

「IoTと冷蔵庫」というテーマについて話すと、必ず話題になるのが、「今後、冷蔵庫は、冷蔵庫の中に

ある玉ねぎの数がわかるようになります。

その情報がお手元のスマートフォンに通知されるので、買い物の時に必要なモノがわかります」という

内容です。しかし、実際は画像解析技術が進んだとしても、玉ねぎの上にニンジンが重なって収納

されている場合、冷蔵庫は玉ねぎの個数を数えることができません。

そこで冷蔵庫に収納する際に「何を収納するか」という情報を冷蔵庫に登録することが必要になるの

です。

これでは、便利になったというより、むしろめんどうな作業が増えたことになってしまいます。

毎日買い物をする主婦にとっては、欲しいものになるとは思えません。

実は、冷蔵庫がIoTによってどうなるのかは、「買い物がどう変わるか」を知ることで理解できるのです。

まず、買い物を「必要な買い物」と「楽しむ買い物」に分けます。

たとえば、「いつものドレッシング」「いつものマヨネーズ」「いつもの納豆」といった、銘柄も

決まっていて、無くなると補充したいモノは「必要な買い物」。

一方、「大阪から取り寄せた特別な醤油」や「仙台から取り寄せた特別な味噌」といったモノは

「楽しむ買い物」に分類します。「楽しむ買い物」は従来通りウィンドウショッピングやECサイトで

「選ぶこと自体を楽しむ」のです。

IoT冷蔵庫では、この「必要な買い物」と分類されたモノについて、無くなりかけたことをセンサーが

認識し、インターネットを介して、自動的に注文されるのです。

私は、これをIoTによる「富山の置き薬」モデルと呼んでいます。

富山の置き薬とは、江戸時代に始まったとされる行商で、薬箱を家に置いておき、使いたい分だけ

使うと薬屋さんがやってきて補充してくれるビジネスモデルです。

IoT社会では「必要な買い物」については、センサーが自動的に補充すべきタイミングを探知して、

EC企業が補充する流れになるのです。

これによって、私たちの消費は大きく変化することが想像できます。

しかし、富山の置き薬モデルを実現するには、メーカーの協力と物流網の構築が必要です。

むしろ、「消費のIoT化」は、メーカー主導ではなく、流通主導で行われるべきだといえます。

たとえばアマゾンのような、かなりの数の品目を取り扱っている企業がこういったコンセプトの冷蔵庫を

開発したら、実現の可能性はかなりあるのではないかとも思います。

実際にアマゾンは、これを半自動で実現しています。それが、「Amazon Dash」です。

消費財の注文機能がついている、物理的なボタンです。

たとえば、特定の洗剤のボタンを押すと、ボタンがインターネット経由で発注し、その洗剤が配達

しなくても、ボタンを壁に貼っておき、必要なタイミングで押すだけで注文ができるのです。

そして2016年、ついにアマゾン社は、Dash Replenishment Service(DRS)というセンサーが自動で残量を

計測し、必要なタイミングで自動発注する仕組みも発表しました。

この例に限らず、今後IoTによって、どんどん「必要な買い物」は自動化される流れとなるでしょう。

 

■   モノの進化を目指す時代の終焉

 

このように、IoTによる「富山の置き薬モデル」が実現すれば、私たちの消費スタイルは大きく変わり

ます。無くなったら自動的に注文され、モノが注文から1時間程度で配達されるような世の中になったと

したら、もはや週末に混雑する大型スーパーでまとめ買いをする必要すらなくなるでしょう。

これはつまり、週末のまとめ買いに使っていた時間を他のことに使えるようになる、ということなのです。

歴史的に見ても、「自由な時間が増える」ことに対しては、ヒトは歓迎する傾向にあるので、IoTに

よって起きる物流面での革命がこの動きを加速するのだろうと予測できます。

一方で、単に「モノとしての冷蔵庫」が進化しただけでは、IoTによる「生活のイノベーション」は

簡単に実現できないこともお分かりいただけたと思います。

「生活のイノベーション」を起こすには、前述した通り、実際は流通業を巻き込んだ、食品や消費財

など「必要な買い物」に対する残量管理と、自動発注・配送を行うことが必要となるからです。

メーカーは、いつも、自社の商品にどうやってイノベーションを起こそうかと考えていますが、IoTに

おいては、モノ自体の進化にだけ目を向けるのではなく、モノを取り巻くサービスやそれを使うヒトを

包括した視点を持って、イノベーションの種を見つけることが重要なのです。

 

 

この続きは、次回に。

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