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「新訳」 イノベーションと起業家精神 上 ⑩

[第4章] ギャップを探す—-第二の機会

  ギャップの存在はイノベーションの機会を示す兆候である。

  それは、地質学でいう「断層」の存在を示す。

  まさに断層はイノベーションへの招待である。

  断層では、わずかな力が、社会を動かし、経済構造や社会構造に変化をもたらす

  不安定状態を生み出す。

1 業績ギャップ

  イノベーションを行うためには、必ずしも、ものごとが動くべく動かない原因を知ろうして

  苦労する必要はない。「このギャップをイノベーションの機会として利用するためにはどうすべきか。

  何がそれを機会に変えてくれるか。何ができるか」を問えばよい。

・鉄鋼業と製糸業の例

  業績ギャップをイノベーションの機会として利用するためには、まず解決すべき問題を明確に

  しなければならない。そして、既知の技術と既存の資源を利用してイノベーションを実現しなければ

  ならない。イノベーションは、複雑であってはならず、単純でなければならない。

  華々しいものでなく、当たり前のものでなければならない。

・医療の例

  産業や社会的部門におけるイノベーションとして理解しやすい例である。

  まさに業績ギャップが、なぜ大きなイノベーションの機会となるかを教えてくれる。

  産業や社会的部門の内部では、誰もがギャップの存在に気づきながら、無視せざるをえない。

  あちらをいじり、こちらを直す。こちらの火を消し、あちらの穴を埋めるのに忙しい。

  誰かが行ったイノベーションと闘うどころか、それを検討する余裕さえない。

  取り返しがつかなくなるまで気づきもしない。

  その間、イノベーションを行った者は、誰にもわずらわされることがない。

2 認識ギャップ

 ・コンテナー船の例

  ある産業や社会的部門の内部の人たちがものごとを見誤り、したがって現実について

  誤った認識をもっているとき、当然、その努力は間違った方向に向かう。

  成果を期待できない分野に努力を集中してしまう。そのとき、それに気づき利用する者にとって、

  イノベーションの機会となる認識ギャップが存在する。

 ・小さなイノベーション

  認識ギャップは、しばしば自ら明らかにとなる。

  真剣な努力が事態を改善せず、むしろ悪化させるときは、そもそも努力の方向性が間違って

  いることが多い。そのようなときには、単に成果のあがることに力を入れるだけで、大きな成果が

  簡単に得られる。事実、認識ギャップを利用するために華々しいイノベーションを必要とすることは

  あまりない。認識ギャップは、産業や社会的部門全体について見られる現象である。

  しかしその解決策は、通常、的を絞った単純で小さなイノベーションを行うことである。

3 価値観ギャップ

 ・消費者が求めているもの

  価値観ギャップの背後には、必ず傲慢と硬直、それに独断がある。

  イノベーションを行う者が価値観ギャップを利用しやすいのは、このためである。

  しかも彼らは、邪魔されずに放っておかれる。

  生産者や販売者は、ほとんどつねにといってよいほど、顧客が本当に買っているものが

  何であるかを誤解している。もちろん彼らは、自分たちにとっての価値が、顧客にとっての

  価値であるという信念をもたなければならない。

  いかなるものであれ一つの仕事に成功するためには、その仕事の価値を信じ、真剣に取り組む

  必要がある。

  生産者や販売者が提供していると思っているものを買っている顧客は、ほとんどいない。

  彼らにとっての価値や期待は、ほとんどつねに供給者の考えているものとは異なる。

  そのようなとき、生産者や販売者が示す典型的な反応が、消費者は「不合理」であって

  「品質に対し金を払おうとしない」である。実は、この種の苦情が聞かれるときこそ、まさに

  生産者や販売者が顧客にとっての本当との間にギャップが存在すると考えるべきである。

  したがって当然、具体的で、しかも成功する確率の大きなイノベーションの機会を探さなければ

  ならない。

4 プロセス・ギャップ

 ・いかに見つけるか

  プロセス・ギャップは、なかなか見つけられないような代物ではない。

  消費者がすでに感じていることである。

  欠けていたものは、それらの声に耳を傾けることであり、真剣に取り上げることだった。

  製品やサービスの目的は消費者の満足にある。

  この当然のことを理解していれば、プロセス・ギャップをイノベーションの機会として

  利用することは容易であり、しかも効果的だった。しかし、それでも深刻な限界がある。

  プロセス・ギャップをイノベーションの機会として利用できるのは、その世界のなかにいる

  者だけだということである。けっして外部の者が容易に見つけ、理解し、イノベーションの

  機会として利用できるものではないのである。

 

この続きは、次回に。

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