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「新訳」 イノベーションと起業家精神 上-12

[第6章] 産業構造の変化を知る—第四の機会

1 産業の不安定性

・産業構造は不変か

  産業や市場の構造は永続的であって、きわめて安定的に見える。

  産業や市場の構造は非常に安定的に見えるため、内部の人間は、そのような状態こそ

  秩序であり、自然であり、永久に続くものと考える。しかし現実には、産業や市場の構造は

  脆弱である。小さな力によって、簡単に、しかも瞬時に解体する。

  そのとき、その産業に属するあらゆる者が、直ちに行動を起こさなければならなくなる。

  昨日までと同じ仕事のやり方をしていたのでは惨事を避けられない。

  つぶれる。少なくともトップの地位を失う。その地位はほとんど取り戻せない。

  しかし産業や市場の構造変化は、イノベーションをもたらす機会である。

  実はそれは、その業界にかかわるすべての者に対し、起業家精神を要求する。

  あらゆる者が、「わが社の事業は何か」を改めて問わなければならなくなる。

  あらゆる者が、この問いに対して新しい応えを出さなければならなくなる。

 

2 自動車産業の場合

 ・自動車産業の第一の波

 ・第二の波

 ・ニッチ市場での成功

 

3 イノベーションの機会

・外部の者にとってのチャンス

  産業構造の変化は、その産業の外にいる者に対し、例外的ともいうべき機会を与える。

  ところが産業の内にいる者にとっては、その同じ変化が脅威に見える。したがって、

  イノベーションを行う外部の者に、さしたるリスクをおかすことなく急速に大きな勢力を

  得ることが できる。イノベーションを行った者が、もともと機会の存在を知っていたと

  いうことである。しかも彼らは、最小のリスクのもとに成功することを確信していた。

  それでは、なぜ彼らはそのような確信をもつことができたのか。

4 産業構造の変化が起こるとき

・変化の兆候

  イノベーションの機会としての産業構造の変化は、次のようなとき、

  ほぼ確実に起こる。

  (1)最も信頼でき、最も識別しやすい前兆は、急速な成長である。

     この前兆は前述のすべてのケースに共通して見ることができる。

     ある産業が経済成長や人口増加を上回る速さで成長するとき、

     遅くとも規模が二倍になる前に、構造そのものがほぼ間違いなく

     劇的に変化する。

     それまでの仕事の仕方でも、ある程度成功を続けることはできる。

     そのため、誰もそれを変えようとしない。しかし、仕事の仕方は

     確実に陳腐化しはじめる。

  (2)産業の規模が二倍に成長する頃とときを同じくして、それまでの

     市場のとらえ方や市場への対応の仕方では、不適切になっている。

     それまで業界トップの地位にあった企業の市場のとらえ方や分類の

     仕方が現実を反映せず、歴史を反映しただけのものになってくる。

     しかるに報告や数字は、古くなった市場感に従ったままである。

  (3) いくつかの技術が合体したときも、産業構造の急激な変化が

     起こる。その一つの例が、構内交換機(PBX)、すなわち

     大口の電話利用者が社内に設置する交換機である。

  (4)仕事の仕方が急速に変わるときにも、産業構造の変化が

     起こっている。

 

・傲慢への挑戦

  産業構造の変化を利用するイノベーションは、その産業が一つ、

  あるいは少数の生産者や供給者によって支配されているとき、

  効果が大きい。長い間成功をおさめ、挑戦を受けたことのない

  支配的な地位の生産者や供給者は、傲慢になりがちである。

  新規参入者が現れても、取るに足らぬ存在、素人にすぎないと見る。

  そのくせ、その新規参入者のシェアが増大を続けても、対策を講じる

  ことができない。

  産業構造の変化が起こっているとき、リーダー的な生産者や供給者は、

  必ずといってよいほど、市場のなかでも成長しつつある分野のほうを

  軽く見る。急速に陳腐化し、機能しなくなりつつある仕事の仕方に

  しがみつく。だが、それまで通用していた市場へのアプローチや組織や

  見方が正しいものでありつづけることはほとんどない。

  したがって、イノベーションを起こした者は放っておかれる。

  昔からの企業は、古い市場において、古い方法で一応の満足すべき

  成果をあげている。

  それらの企業は、外部からの新しい挑戦に注意を払わない。

  大目に見るか、まったく無視する。

・単純なものが成功する

  産業構造の変化をとらえるイノベーションが成功するためには、

  一つだけ重要な条件がある。

  単純でなければならないことである。複雑なものはうまくいかない。

 

この続きは、次回に。

 

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