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「新訳」 イノベーションと起業家精神 上-13

[第7章] 人口構造の変化に着目する—第五の機会

  予期せぬ成功や失敗、ギャップの存在、ニーズの存在、産業構造の変化などのイノベーションの

  機会は、企業や産業、あるいは市場の内部に現れる。もちろん、経済、社会、知識など、産業や

  市場の外部における変化が原因であることもある。しかし、それらのイノベーションの機会が

  現れるのは、あくまで産業や市場においてである。

  これに対し、産業や市場の外部に現れるイノベーションの機会がある。

   (1)人口構造の変化

   (2)認識の変化

   (3)新しい知識

  これらの変化は、社会的、形而上的、政治的、知的な世界における変化である。

 

1 人口構造の変化

  産業や市場の外部における変化のうち、人口の増減や年齢構成、雇用や教育水準、

  所得など人口構造の変化ほど明白なものはない。いずれも見誤りようがない。

  それらの変化がもたらすものは、予測が最も容易である。しかも、リードタイムまで

  明らかである。

  人口構造の変化は、いかなる製品が、誰によって、どれだけ購入されるかに対し、

  大きな影響を与える。先進国では、60代、70代の退職後間もない人たちが、

  旅行や保養の市場において中心的な世代となる。

  ところが10年後には、この同じ人たちが、高齢者コミュニティや老人ホーム、あるいは

  (金のかかる)介護施設の客となる。

  共働き夫婦には、金はあるが時間がない。彼らはそのような人間として消費する。また、

  若いときに高等教育、とくに自由業や高度の技術の教育を受けた人たちは、卒業の10年後、

  20年後には、高度の再教育コースの受講者となる。高等教育を受けた人たちは、主として

  知識労働者になる。

・急激な変化

  これらのことは明白であって、今さら人口構造の変化の重要性について云々する必要は

  ないと考えられるにちがいない。

  事実、企業人、経済学者、政治家は、人口構造の変化の重要性をつねに口にしている。

  しかるに彼らは、自らの意思決定においては、人口構造の変化に注意する

  必要はないと信じているかのようである。

  出生率、死亡率、教育水準、労働力構成、就業年齢、人口分布、人口移動など、人口構造の

  変化は、緩慢かつ長期にわたる変化であって、実際的な意味はほとんどないとしている。

  しかしそのような事態を別にするならば、人口の変化は緩慢であって、歴史家や統計学者の

  関心ごとではあっても、企業人や政府には関係ないとする。だがこれは、危険な間違いである。

・原因は不明

  これら人口構造の変化は、驚くべき速さで起こるだけではない。

  しばしば、不可思議であって、説明がつかない。

・リードタイムは予測可能

  人口構造の変化は、そもそも不可能なのかもしれない。しかしたとえそうであっても、

  人口構造の変化が現実の社会に影響をもたらすまでには、リードタイムがある。

  予測が可能なリードタイムがある。

・変化の無視

  このような人口構造の変化が起業家にとって実りあるイノベーションの機会となるのは、

  ひとえに既存の企業や社会的機関の多くが、それを無視してくれるからである。

  彼らが、人口構造の変化は起こらないもの、あるいは急速には起こらないものであるとの

  仮定にしがみついているからである。

  まったくのところ、彼らは人口構造の変化を示す明らかな証拠さえ認めようとしない。

  専門家たちが、自分たちが自明としていることに合致しない人口構造の変化を認め

  ようとせず、あるいは認めることができないという事実が、起業家に対し、イノベーションの

  機会をもたらす。

  しかも、リードタイムは明らかである。すでに変化は起こっている。

  誰もそれを、機会とするどころか、単なる事実としてさえ受け入れようとしない。

  したがって、通念を捨てて現実を受け入れる者、さらには新しい現実を自ら進んで

  探そうとする者は、長期にわたり、競争にわずらわされることなく事業を行うことができる。

  なぜならば、通常、競争相手が人口構造の変化を受け入れるのは、その次の変化と現実が

  やってきた頃だからである。

2 「イノベーションの機会」としての利用

・成功例

  ここに、人口構造の変化をイノベーションの機会としてとらえることに成功したいくつかの例がある。

                           「詳細は、是非、自分で読んでみてください」

・女性の社会進出

  人口構造の変化をイノベーションの機会としてとらえ、生産性の高い優れた労働力を手に入れる

  ことに成功した顕著な例がいくつかある。 

                           「詳細は、是非、自分で読んでみてください」

 

3 人口構造の変化の分析

  もちろん人口構造の変化の分析は、人口にかかわる数字から始まる。ただし、人口の総数

  そのものにはあまり意味がない。年齢構成のほうが重要である。

  1960年代の西側先進国(ベビーブーム期の短かったイギリスを除く)で最も注目すべき

  変化は、若者の急激な増加だった。

  1980年代の最も注目すべき変化は、若者の減少、(40歳以下の)中年前期の人口の着実な

  増加、(70歳以上の)高齢者の急激な増加だった。これらの変化は、1990年代には、さらに

  重要な意味をもつことになる。これらの変化はいかなる機会をもたらすか。

  これら各年齢層の人たちの価値観、期待、ニーズ、欲求はいかなるものだろうか。

・時代の空気

  人口の年齢構成に関して、とくに重要な意味をもち、かつ確実に予測できる変化は、

  最も急速に成長する最大の年齢集団の変化、すなわち人口の重心の移動である。

  人口の重心の移動に伴い、時代の空気が変化する

  もちろん10代は、相変わらず10代の行動として受けとめられる

  かくして1970年代の半ばには、やがて大学のキャンパスが「運動」や「反体制」とは無縁と

  なり学生が再び成績や就職先に気をとられること、さらには、ある1968年卒の運動家たちで

  さえ、その圧倒的多数が、キャリア、昇進、節税、ストックオプションを考える上昇志向の知識

  労働者になるであろうことは、ほぼ確実に予測できることとなっていた(事実、そのように予測

  した者もいた)。

 

・行って、見て、聞く

  必要なことは問いを発することである。しかし統計を読むだけでは十分ではない。

  統計は出発点にすぎない。現場に行き、見て、聞く者にとって、人口構造の変化は

  生産性と信頼性のきわめて高いイノベーションの機会となる。

 

 この続きは、次回に。

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