お問い合せ

チェンジ・リーダーの条件⑥

○   われわれの事業は何になるか

「われわれの事業は何か」との問いへの答えのうち、大きな成功をもたらしたものでさえ、やがて陳腐化する。

事業に関わる定義のうち、50年はもちろん、30年でさえ有効なものはあまりない。10年が限度である。したがって、マネジメントたるものは、「われわれの事業は何か」を問うとき、「われわれの事業は何になるか。

事業の目的や性格に影響を与えるおそれのある環境の変化は認められるか」「それらの予測を、われわれの定義すなわち事業の目的、戦略、仕事にいかに組み込むか」を問わなければならない。

この場合にも、出発点になるのは市場である。

「顧客や市場や技術に基本的な変化が起こらないものと仮定した場合、5年後あるいは10年後に、われわれの事業にとって、いかなる大きさの市場を予測できるか。そして、いかなる要因が、その予測を正当化し、あるいは無効とするか」

市場の動向のうちもっとも重要なものは、人口構造の変化である。

人口は先進国、途上国の双方において急激に変化する可能性がある。事実、変化している。

人口構造は、購買力や購買パターン、あるいは労働力に影響を与えるというだけの理由で重要なのではない。

それは、人口構造が、未来に関して予測可能な唯一の事実だからである。

最後に、消費者の欲求のうち、今日の製品やサービスで「満たされていない欲求は何か」を問わなければならない。

この問いを発し、かつそれに正しく答える能力をもつことが、波に乗っているだけの企業と本当に成長する企業との差になる。

波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する。

「われわれの事業は何になるのか」との問いは、予測される変化に適応するための問いである。

それが目指すものは、現在の事業を修正し、延長し、発展させることである。

しかし、「われわれの事業は何であるべきか」との問いも不可欠である。

現在の事業をまったく別の事業に変えることによって、新たな機会を創造できるかもしれない。

この問いを発しない企業は、重大な機会を逃す。

「われわれの事業は何であるべきか」との問いに答えるうえで考慮すべき要因は、社会、経済、市場の変化であり、イノベーションである。

自らによるイノベーションと、他社によるイノベーションである。

 

○   何を廃棄するか

新しいことの開始の決定と同じように重要なこととして、企業の使命に合わなくなったり、顧客に満足を与えなくなったり、業績に貢献しなくなったものを計画的に廃棄することがある。

「われわれの事業は何か、何になるか、何であるべきか」を決定するための手順として、既存の製品やサービス、工程、市場、流通チャンネル、最終用途について体系的に分析していくことがある。

「それらのものは。今日も有効か。明日も有効か」「今日顧客に価値を与えているか。明日も顧客に価値を与えているか」「今日の人口や市場、技術や経済の実態に合っているか。

もし合っていない場合には、いかにしてそれらを廃棄するか。

あるいは少なくとも、いかにしてそれらに資源や努力を投ずることを中止するか」

これらの問いを真剣にかつ体系的に問い続け、得られた答えに従って行動していかないかぎり、たとえ「われわれの事業は何か、何になるか、何であるべきか」という問いについて最善の定義を下したとしても、単に立派な手続きをとったというだけに終わる。

エネルギーは昨日を防衛するために使い果たされる。

明日をつくるために働くことはもちろん、今日を開拓するために働く時間も、資源も、意欲ももちえないことになる。

事業を定義することはむずかしい。

苦痛は大きく、リスクも大きい。しかし、事業の定義があって初めて、企業は目標を設定し、戦略を開発し、資源を集中し、活動を行うことができる。

事業の定義があって、初めて業績をあげるべくマネジメントできるようになる。

 

○   目標を具体化する

ここにいう目標とは、

第一に、「われわれの事業は何か。何になるか。何でなければならないか」という問いから導きだされる具体的な目標である。

抽象的であってはならない。

目標とは、使命を実現するための公約であり、成果を評価するための基準である。言いかえるならば、目標とは、事業にとって基本戦略そのものである。

第二に、目標は行動のためのものである。仕事のターゲットと割り当てにそのままつながるべきものである。

仕事と成果にとって、基準となり、動機づけとなるものである。

第三に、目標は、資源と行動を集中させるためのものである。

事業活動のなかから重要なものを区別し、人、物、金という主たる資源の集中を可能にするものである。したがって、それは網羅的ではなく、めりはりのあるべきものである。

第四に、目標は一つではなく、複数たるべきものである。

ところが最近の「目標によるマネジメント」をめぐる論議は、正しい目標を一つ求めている。しかしそのような目標は、練金のための賢者の意思のように益がないだけでなく、害をなし、人を誤り導く。

つまるところ、マネジメントとは、多数なニーズをバランスさせることである。そのためには、目標は複数でなければならない。

第五に、目標は、事業の成否に関わる領域すべてについて必要なものである。目標の内容は組織によって違う。しかし目標を設定すべき領域は、あらゆる組織に共通している。

なぜならば、事業の成否を決める要素は、いかなる組織でも同じだからである。

企業はまず、顧客を創造しなければならない。したがって、マーケティングの目標が必要である。

企業はイノベーションを行わなければならない。さもすれば、陳腐化する。

イノベーションの目標が必要である。したがって、それらのものの補給、利用、開発についての目標が必要である。

企業が生き残るためには、それらの資源の生産性を向上させていかなければならない。したがって、生産性についての目標が必要である。

さらに、企業は社会のなかに存在する以上、社会的な責任を果たさなければならない。したがって、社会的責任についての目標が必要である。

そして最後に、利益をあげなければならない。さもなければ、いかなる目標も達成できない。

あらゆる目標が何らかの活動を必要とし、したがってコストを必要とする。

それらのコストは利益によって賄われる。しかも、あらゆる活動がリスクを伴う。それらのリスクをカバーするための利益を必要とする。

利益自体は目標ではない。しかしそれは、企業それぞれの戦略、ニーズ、リスクに応じて設定すべき必要条件である。

したがって、目標は八つの領域において必要とされる。すなわち、マーケティングの目標、イノベーションの目標、人的資源の目標、資金の目標、生産性の目標、社会的責任の目標、必要条件としての利益の目標である。

目標は絶対のものではない。方向づけである。拘束ではない。献身である。

未来を決めるものではない。未来を決めるものではない。

未来をつくるべく資源を動員するための道具である。

 

この続きは、次回に。

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