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チェンジ・リーダーの条件-33

○ 専門市場戦略—-ニッチ戦略③

専門技術戦略が、製品やサービスについての専門知識を中心に構築されるのに対し、専門市場戦略は、市場についての専門知識を中心に構築される。

他の点については、両者はほとんど同じである。

専門市場は、「この変化には、ニッチ市場をもたらすいかなる機会があるか。

他に先がけて、それを手に入れるには何をなすべきか」を、徹底的に問うことによって手にできる。

専門技術の地位にも、専門技術の地位と同じように厳しい条件が伴う。

すなわち、第一に、新しい傾向、産業、市場について、つねに体系的に分析を行っていかなければならない。

第二に、トラベラーズチェックの例のような小さな工夫にすぎなくとも、とにかく何らかのイノベーションを加えなければならない。

第三に、手に入れた地位を維持するには、製品やサービスの向上、特にサービスの向上のために、休まず働かなければならない。

専門市場の地位にも、専門技術の地位と同じように限界がある。

専門技術の地位にある者にとって、最大の敵は、自らの成功である。

専門市場が、大衆市場になることである。

 

○ 効用戦略—–顧客創造戦略①

これまで述べてきた起業家戦略は、いずれもイノベーションの導入の仕方が戦略だった。

次に述べる戦略は、イノベーション自体が戦略である。

製品やサービスはむかしからあるものでよい。

そのむかしからある製品やサービスを、新しい何かに変える。効用や価値、あるいは経済的な特性を変化させる。

物理的にはいかなる変化も起こさなくてよい。しかし、経済的にはまったく新しい価値を創造する。

それらの起業家戦略には、一つの共通項がある。

いずれも顧客を創造する。

顧客の創造こそ、つねに事業が目的とするものである。

さらには、あらゆる経済活動が空極の目的とするものである。

この顧客創造戦略には、効用戦略、価値戦略、事情戦略、価値戦略の四つがある。

効用戦略では、価格はほとんど関係ない。

顧客が目的を達成するうえで必要なサービスを提供する。

顧客にとって「真のサービスは何か」「真の効用は何か」を追求する。

 

○ 価格戦略—–顧客創造戦略②

供給者のほとんどが、戦略として価格設定をとらえようとしない。

価格設定の仕方によって、顧客は、供給者が生産するものではなく自分たちが買うもの、すなわち、一回のひげそり、一枚のコピーに対し対価を払うようになる。

総額として払う額はさして変わらない。

支払い方法を、消費者のニーズと事情に合わせればよい。

消費者が実際に買うものに合わせるだけのことである。

供給者にとってのコストではなく、顧客にとっての価値に対し価格を設定すればよい。

 

○ 事情戦略—-顧客創造戦略③

メーカーは合理的に行動しない顧客についてこぼす。しかし、合理的に行動しない顧客などいない。

むかしからいわれるように、いるのは不精なメーカーだけである。

顧客は合理的に行動する。

単に、顧客の事情がメーカーの事情と違うだけである。

 

○    価値戦略—顧客創造戦略④

顧客創造戦略としての価値戦略は、メーカーにとっての製品だけでなく、顧客にとっての価値を提供する。

この戦略は、顧客の事情を、顧客のニーズの一部として受け入れるという前述の戦略の延長線上にある。

多少なりとも頭を使えば、誰でも同じ戦略を考えるのではないか。

理論経済学の父デイヴィッド・リカードは、「利益は、賢さの違いからではなく、愚かさの違いから生まれる」と言った。

まさに起業家は、自らが賢いからではなく、ほかの者が何も考えないから成果をあげる。

わかりきったことであるがゆえに、成果をあげる。それではなぜ、これらの例が示すように、顧客が何を買うかを考える者は必ず勝てるにもかかわらず、それが稀にしか見られないのか。

競って考えるということをしないのは、なぜか。

理由の一つは、経済学とその価値論にある。

たしかにあらゆる経済学が、顧客は、製品ではなく製品が提供するものを購入するという。

ところがそのあと、経済学は、製品の価格以外のこと、すなわち顧客が製品やサービスの所有や占有のために支払う価格以外のことについては、いっさい言及しない。

製品が顧客に提供するものについて、二度と触れない。

顧客にとっての効用、顧客にとっての価格、顧客にとっての事情、顧客にとっての価値からスタートすることは、マーケティングのすべてである。

40年間もマーケティングが説かれ、教えられ、信奉されながら、それを実行する者があまりに少ない理由は、私にも説明できない。しかし、起業家戦略の基礎としてマーケティングを行う者だけが、市場におけるリーダーシップを、ただちに、しかもほとんどリスクなしに手に入れているという事実は残る。

 

 

この続きは、次回に。

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