完訳 7つの習慣-人格の回復-5
第一部 パラダイムと原則
インサイド・アウト
正しい生き方なくして真の成功はありえない。
――――デイビット・スター・ジョーダン
IBMの管理職能力開発セミナーで「コミュニケーションと認知」というテーマで講義をしていた。
講義の準備をしていて、人は物事をどう認知し、それが行動をどのように支配するのか、ものの見方が行動にどう影響するのか、強い感心を持つようになった。
そして期待理論や自己達成予言、「ピグマリオン効果(訳注:教師の期待が生徒の学力を伸ばすという教育心理学理論)」を調べていくうちに、ものの見方が人の内面の深いところで作用していることに気づいたのである。
要するに、何を見るかというよりも、どのようなレンズを通して見ているかが問題であり、そのレンズこそが一人ひとりの世界観をつくっているのである。
状況を変えたければ、まず自分たちが変わらなくてはならないのだと、私たち夫婦は悟った。
そして自分が本当に変わるには、ものの見方を変えなくてはならない。
個性主義と人格主義
建国から約150年間に書かれた「成功に関する文献」は、誠意、謙虚、誠実、勇気、忍耐、勤勉、質素、節約、黄金律など、人間の内面にある人格的なことを成功の条件に挙げている。
私はこれを人格主義と名づけた。中でもベンジャミン・フランクリンの自叙伝は圧巻で、特定の原則と習慣を深く内面化させる努力を続けた一人の人間の姿が綴られている。
この人格主義が説いているのは、実りのある人生には、それを支える基本的な原則があり、それらの原則を体得し、自分自身の人格に取り入れ内面化させて初めて、真の成功、永続的な幸福を得られるということである。
ところが、第一次世界大戦が終わるや人格主義は影をひそめ、成功をテーマにした書籍は、いわば個性主義一色になる。
成功は、個性、社会的イメージ、態度・行動、スキル、テクニックなどによって、人間関係を円滑にすることから生まれると考えられるようになった。
この個性主義のアプローチは大きく二つに分けられる。
一つは人間関係と自己PRのテクニック。
もう一つは積極的な心構えである。
こうした考えのいくつかは、「態度が成功を決める」「笑顔が友だちをつくる」「どんなことでも思い、信じれば達成できる」といった元気づける言葉やときには正当な格言となる。しかし、個性をもてはやす数々の「成功に関する文献」では、人を操るテクニック、ひどいときには明らかに騙しのテクニックさえ紹介されていた。
相手が自分を好きになるように仕向けたり、自分が欲しいものを得るために、相手の趣味に興味があるかのようなふりをしたり、はたまた高圧的な態度で怖がらせ、人を利用するテクニックである。
もちろん、個性主義の文献も人格を成功の要因と認めてはいるが、切っても切り離せない必須要因とみなしてはおらず、添え物的に扱っている文献がほとんどである。
人格主義に触れるくだりがあったとしても、通り一遍である。
これらの文献が強調しているのはあくまで、即効性のある影響力のテクニック、力を発揮する戦力、コミュニケーションスキル、ポジティブな姿勢なのである。
この続きは、次回に。
なお、ベンジャミン・フランクリンをご紹介したいと思いましたが、ページ数が多いので次回にてご紹介致します。