完訳 7つの習慣-人格の回復-8
パラダイムの力
「7つの習慣」は、効果的に生きるための基本的な原則を具体的なかたちにしたものである。
「7つの習慣」のどれもが基礎であり、第一の偉大さにつながるものである。
これらの習慣を身につけるのは、継続的な幸福と成功の土台となる正しい原則を自分の内面にしっかりと植えつけることに他ならない。
しかし、「7つの習慣」を本当に理解するためには、まず自分のパラダイムを理解し、パラダイムシフトの方法をしらなければならない。
人格主義も個性主義も社会的パラダイムの一例である。
パラダイムという言葉はギリシャ語に由来している。
もともとは科学用語だったが、昨今はモデルや理論、認識、既成概念、枠組みを意味する言葉として広く用いられている。
平たく言えば物事の「見方」であり、物事をどう認識し、理解し、解釈しているかである。
パラダイムとは、何らかの現実を表す理論、説明、あるいはモデルのことである。
個性主義の根本的な欠点の一つが浮かび上がる。
態度と行動の源泉である自分のパラダイムを詳しく観察し、理解しなければ、個性主義のテクニックで態度や行動を変えようとしても、長続きしないということである。
この認知試験から得られるもう一つの教訓は、他者との接し方もパラダイムの影響を強く受けていることを気づかせてくれることである。
自分は物事を客観的に、正確に見ていると思っていても、違う見方をしている相手もまた、話を聴けば同じように客観的に正確に見ていることがわかってくる。
「視点は立ち位置で変わる」のである。
誰しも、自分は物事をあるがままに、客観的に見ていると思いがちである。だが実際はそうではない。
私たちは、世界をあるがままに見ているのではなく、私たちのあるがままの世界を見ているのであり、自分自身が条件づけされた状態で世界を見ているのである。
何を見たか説明するとき、私たちが説明するのは、煎じ詰めれば自分自身のこと、自分のものの見方、自分のパラダイムなのである。
相手と意見が合わないと、相手のほうが間違っていると瞬間的に思う。
自分の頭のなかにある地図、思い込み、つまり基本的なパラダイムと、それによって受ける影響の程度を自覚し、理解するほど自分のパラダイムに対して責任を持てるようになる。
自分のパラダイムを見つめ、現実に擦り合わせ、他の人の意見に耳を傾け、その人のパラダイムを受け入れる。
その結果、はるかに客観的で、より大きな絵がみえてくるのである。
パラダイムシフトの力
パラダイムシフトという言葉を始めて使ったのはトーマス・クーンという科学史家で、多大な影響を及ぼした画期的な著作『科学革命の構造』に出てくる。
同書の中でクーンは、科学の分野における重要なブレークスルーのほとんどは、それまでの伝統、古い考え方、古いパラダイムとの決別から始まっていると述べている。
古代エジプトの天文学者プトレマイオスにとって、宇宙の中心は地球だった。しかしコペルニクスは、激しい抵抗と迫害に遭いながらも中心は太陽だと主張した。
このパラダイムシフトによって、それまでとは異なる視点から全てが解釈されるようになる。
ニュートンの物理学モデルは正確なパラダイムであり、現在も工学の基礎である。しかしそれは部分的で不完全なものだった。
後にアインシュタインは相対性理論を打ち出し、科学界に革命をもたらす。
アインシュタインのこのパラダイムは、自然現象の予測と説明の精度を飛躍的に高めたのである。
パラダイムシフトはプラスの方向だけに働くとは限らない。
前述したように、人格主義から個性主義へのパラダイムシフトは、真の成功と幸福を育む根っこを引き抜いてしまった。
人生を揺るがす危機に直面し、物事の優先順位が突如として変わるとき、あるいは夫や妻、親、祖父母、管理職、リーダーなど新しい役割を引き受けるとき、多くの人は考え方が根本から変化するパラダイムシフトを体験している。
態度や行動を改善すべく、何週間、何ヶ月、何年も個性主義のテクニックを身につける努力を積んできたところで、物事が一瞬にして違って見えるパラダイムシフトの大きな変化には比べようもないだろう。
成果地の中で比較的小さな変化を起こしたいのであれば、私たちの態度や行動に対し適切にフォーカスすれば良いだろう。しかし大きな変化、劇的な変化を望むのなら、土台となるパラダイムを変えなくてはならない。
ソロー(訳注:米国の作家・思想家)は、「悪の葉っぱに斧を向ける人は千人いても、根っこに斧を向けるのは一人としていない」と言っている。行動や態度という「葉っぱ」だけに斧を向けるのをやめ、パラダイムという「根っこ」を何とかしなければ、生活を大きく改善することはできないのである。
この続きは、次回に。