ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 7
3章 卓越した先見力の秘密
「断絶の時代」を読みとる力
過日、日本経済新聞社のある論説委員と話をしていた時に、現代のような乱世において、
本当の意味で方向性なりアドバイスを求めるとすると、世界で誰がいるかということが話題に上がった。
その際、やはりあれこれ考えると、ピーター・F・ドラッカーしかいないということで
ふたりの意見は一致した。その理由はなぜか。
それはドラッカーが一部の狭いジャンルの中に行き来しているような単なる経営学者ではなくて、
まさにサンギョウ文明の大きなうねり、あるいは歴史的な変革と大きな潮流に対して、
他の人よりも早く、しかも鋭い洞察を示し、時代の変転、特にその著書名が指すように
『断絶の時代』——-連続性、連綿性のない飛躍としての時代変化—-
の予兆を、的確に読み取るからだと言えよう。
知識社会そのものが持つまず一番の矛盾は、これまで人間が自然発生的に形成してきた
旧来のコミュニティである地域社会あるいはファミリーと、企業とは、むしろ対立する
存在であるという点である。すなわち、地域性、風土、言語、民族などの凝集力によって安定性を
志向してその結合性を強めてきたのがコミュニティである。
しかし、これからは知識社会が基軸になる。ということは、情報ベース型の組織を基本とした
多面的構成の社会が到来するということになる。
そうすれば社会そのものは、それが営利、非営利を問わず、オーガニゼーション中心の社会となる。
この現代のオーガニゼーションは、専門性をベースにした、経済的パフォーマンスという
課題を担った組織であり、その組織の本務は、革新(ドラッカー流に言えば)、
創造的破壊(シュンペーター流に言えば)、老朽化・陳腐化(パッカード流に言えば)である。
そこで、もともと不安定化を誘発・促進し変動要因を基軸とするオーガニゼーションと、
安定志向型の在来のコミュニティやファミリーとの間における相剋や葛藤や緊張が、
相当の間続くだろうとドラッカーは読むのである。
それが一段落つくのが、2010年から2020年までと見ているのである。
先見力の6つの源泉
いくつかの節目においてそのつど次の時代へのパラダイム・シフトを示唆し、大胆なビッグ・ピクチャー
(大局観)を提示し、しかも新時代への対応をめぐる数々の提言をドラッカーは重ねてきた。
すでに一応の分析は行ったが、このドラッカーの緻密な実証力と大胆な予言が、
いったいどういう源泉から生まれ出たものなのか、また、今日、そしてこれからの
ビジネスマンにとって、ビジネスやマネジメント上の先見力が、どのような発想と思考に
よって得られるかを、ドラッカーの歩みと発言をもとにさらに深く解説することにしよう。
ドラッカーの発想とその鋭い先見力は、次の6つのルーツに帰着するように思える。
第1は、ドラッカーがマクロ(経済)とミクロ(経営)との両方に強いことである。
この続きは、次回に。