ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 8
該博な歴史知識を背景にして
ドラッカーの先見力の鋭さの第2の源泉は、やはりその歴史に対する該博な知識と、
歴史の教訓の読み取りの深甚さではなかろうか。
グローバルな思考という強味
第3のドラッカーの先見力のベースは、その知識と思考がグローバルに拡がっていると
いう点である。グローバルという言葉は、グローブ(globe)、すなわち地球、したがって
「地球的な、全世界的な広がり」「普遍性を持った」という意味である。
ドラッカーは、なるべく物事をグローバルに、そしてカトリックの原義であり普遍性を意味する
「カトリコス」のように観察しようとする意欲の強さが、その意味である。
マルチ人間の特徴を存分に発揮
ドラッカーの先見力を裏付づける第4の事実は、これまでの記述からもすでに推察がつくように、
単なるトンネル・ビジョンに限定された、狭い近視眼的な経営学者ではないという点にある。
ジャーナリストとしての情報収集、哲学者・歴史家としての本質の洞察、投資家としての
企業のリスクと企業環境の見分け方、教授としての知識の体系化、研究者としての文脈の整理、
コンサルタントとしての事実発見と診断の妙技、こういうすべての力がドラッカーの中に凝集し、
ひとつにまとまっていることが、その先見性を豊かならしめる重要な第4のファクターだと言えよう。
あくなき統合化への執念
5番目のドラッカーの持ち味の中で先見力に結びつくものは、そのあくなき統合化への
執念である。それまで世界の経営学は、次に述べるようないくつかの限定された、
狭い視野から、各派にバラバラに分かれていた。
①から⑤までありますが、※省略致します。
いずれもそこに欠落していたのは、現実の企業経営者を中心とし、企業経営者の
イニシアチブと責任とリスク・テーキングをベースとして事業を展開するという主体的側面である。
ドラッカーはこうしたすべての流れを大統合して、経営者主体の経営学を見事にまとめあげ、
今日の、市場の創造と革新を2大軸としてドラッカー経営学の樹立に至ったのである。
この統合化へのドラッカーの執念は、経営学の統合だけでなく、今一番の課題である
知識社会や情報化社会へのシフトを軸とした未来展望、あるいは今日細かく分断されている
組織論の新統合化に向けられていることにも、端的に表れているのである。
流行の中に不意を見抜く
6番目のドラッカーの先見力の裏付けをなす特性は、ひと言で言うならば、日本の芭蕉翁の
「流行の中に不易を求める」という姿勢である。
ドラッカーの唯一のキーワードといえばチェンジ(変化・変革・変容・変貌)だといえよう。
もちろんその変形であるトランスフォーメーションやイノベーション(革新)、
あるいはシフト(転換)も含まれている。
そして、ドラッカーのすべての発想の中には、移りゆく流行の中において、
移りゆかざる不易を、長期、中期、短期と区別して見きわめようという姿勢である。
例えば、最近の現代社会の中における知識は、すぐに陳腐化してしまうため、
たとえ科学の最先端の技術を学んで大学院を出た若手といえども、その「知識の
半減期(ハーフ・ライフ)は今や5年でしかないことがよく指摘される。
しかし、知識そのものは絶えず陳腐化しても、日本の京都の友禅染の技術が何百年も変わらず、
また基本的な印刷技術に関しては、ごく最近までグーテンベルク以来変わっていなかったことを
ドラッカーは示して、技能そのものの基本はなかなか変わらないことを指摘するのである。
したがって変化を恐れず、変容する相の中において変わらざるものを、短期、中期、
長期に選りわけていくドラッカーのお手並みはさすがであると言わねばならない。
この続きは、次回に。