ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 9
旺盛な記憶力
それではドラッカー自身の個人的な資質面で、その予見力を強めることに貢献している
ファクターがあるとすれば何だろうか。
その第1は、旺盛な記憶力である。
英語では、覚えのいい人をフォトジェニック(写真的)な記憶力の持ち主と呼ぶ。
つまり物事を覚えてしまう様子を写真的にパッと写したようだと称することであるが、
ドラッカーの場合は、写真的要素と同時に、その頭の中に様々に応用の利くシナップス(神経束)間の
もの凄いリンク(連結性)が存在することが、どうもその博覧強記の秘密であるように思える。
とことん考え抜く
2番目に気がつくのは、ドラッカーの文章の中には様々な引用が出てくるが、いわゆる学者のような形での
無味乾燥な、あるいは原典どおりの引用は数少ないという点である。
自分の思考過程において貪欲に、その時その時の栄養として意見なり見解なり技術なりを
まさに血肉と化し、消化しているからである。
すなわち単なる知識ではなく、それをドラッカーの好きな言葉である〝シンク・アウト(think out)〟
あるいは〝シンク・スルー(think through)〟(とことん考え抜くこと)によってまさに
自家薬籠中のものとし、おのれの一部にしてしまうところがドラッカーのすごさなのであろう。
さて、3番目の特性は、前述の統合力とも強い関係があるが、物事の本質に肉薄する際の、
研ぎすまされた探求力ではなかろうか。
我々がとかく現象面に拘泥し、そこで振り回されてしまうのに対し、ドラッカーは、
その裏にあるのは何か、それを導く原動力は何か、その背後にあるダイナミックスは
何かということを絶えず考究し、また場合によっては口に出して考えるのである。
すなわちドラッカーは〝シンキング・アラウド(thinking aloud〟という英語でいう、
話しつつ考えることもよく行う。
このドイツ語風にいうならばグルント(根源)へのあくなき回帰、根源への追撃という
絶えざる精神的な営みが、ドラッカーの先見力にそのまま投影されていると見て間違いない。
性格分類から見たドラッカー
欧米で最も代表的なタイポロジー(性格分類学)の祖と言われている、スイスの心理学者C・G・ユングは、
まず人間の心の営みを外に向かう外向性と、内向性とに分ける。
外向性というのは、おのれの関心が自分の外なる世界に向いていることだ。
そして内向性というのは、自分の主たる関心が心の中の様々な営みに向いているということである。
さらにユングは、人間の心の営みの類型を、まず外の世界を受け止める(パーセプション)において、
それを本質を衝く形で飛躍して直観的に把握するタイプと、いろいろな感覚を動員しながら
積み重ねていって認識するタイプとに分けている。
ドラッカーの場合は、どちらかといえば飛躍的な、ズバリ本質把握型ではあるが、
かなり各感覚に頼りながら、積み重ね的に現実を見ていく側面も発達しているように思える。
したがって、この現実掌握においても、ユングのいう直観型と感覚型の両方を、
これまた均衡よく兼ね備えていると言えるのではなかろうか。
そしてその受け止めた現実をどう判断するかについてユングは、感情や好き嫌いに基づく判断と、
各要素を論理的に分析してとことん思考するシンキングによる判断のふたつに分けている。
ドラッカーの場合には、もちろん生身の人間である以上感情的判断も時おりは見られるが、
基本的にはシンキング(思考)によって判断する点がその特性であるように思われる。
この続きは、次回に。