ドラッカーとの対話 未来を読みきる力 39
第5部 ドラッカーの日本を見る眼・世界を見る眼
15章 日本とアメリカをあえて見つめ直す
□ 歴史の教訓の深みから
予言や予測はしないことを信条としているドラッカーだが、1950年代には今日の
サイバー社会の到来や、60年代には日本の興隆を、そして民営化、知識労働者、
目標による管理などについても50年以上にわたって他の先んじて指摘した予測力は
やはり鋭いといわざるを得ない。
その源泉は人口動態と歴史の教訓の読み取りの深さからくるもである。
そこでこの章では、ドラッカーが日本の将来やアメリカの企業の行方について
どう考えているかを見てみよう。
□ 日本の景気回復と官僚制度
日本の官僚は大変長い成功の歴史があるが、それに頼りすぎており、日本を脅かしている
人口動態上の大変化に対しては現在のパワー・グループでは対処しえない。
出産可能年齢の女性1人あたり1.5人の出生率では、次の世紀には1億3500万人の人口が
わずか5000万人にまで減ってしまう。
するとこれまでのような製造業中心の体制では、ニッチもサッチもいかなくなるのに、
いまだに古い発想にしがみついているように見える。
□ アメリカは日本にどういう手を打つか
日本の金融制度そのものは、日本人のニーズにすら合っておらず、金利も低く、
しかもコストは高いときている。
モデルとしては、アメリカではなくむしろヨーロッパをモデルにすべきである。
アメリカは技術やマネジメント教育のモデルにはなるが、政治や社会構造としては
日本のお手本にはならないとドラッカーは言う。
日本のやり方は大陸ヨーロッパと基本的には似ている。
日本の政治制度が硬直化していることも、こうした目で見ればよく理解できるはずだ。
天下りだってフランスの場合とまったく同じ。
日本もヨーロッパも、それぞれ同じひとつのクラブのメンバーなのだ。
□ アメリカのマネジメントの強味と問題点
さて、そこで話はアメリカのマネジメントの強味と弱味へと変わっていく。
第1は、アメリカの中堅企業の成功である。
アメリカのMBAは、最初は大企業に入るが、のちに中堅企業に移ったり、
自分で起業するものが多く、かくしてミディアム・サイズのマネジメント力が大いに向上する。
逆にアメリカのマネジメントで最も問題なのは、トップの給料の取りすぎである。
もうひとつ気に入らぬものは、企業も政府もしゃべりすぎることである。
とにかく〝うるさい(ノイジー)社会〟になった中で、つまらぬゴシップに多くの時間を費やしている。
さらに気にくわないのは、マネジメントがファッション化してきていることである。
ダウンサイジング、リエンジニアリングだと次から次へとうつつを抜かしているが、
経営管理の96%はルーティング的な定例反復業務であることを、ゆめ忘れてはならない。
最後に人口動態学の話となり、ドラッカーは、若者が少なくなることに触れて、
定年退職したと知識労働者は十分売れるスキルを有しているので、パートタイムで、
しかもオフィスではなく働くことを奨励する。
こうした傾向は、ベビーブーマーがリタイヤする2010年あたりまで続く。
そしてブルーカラー労働者はいよいよ減少するので、みな70歳まで働き続けるようになる。
この続きは、次回に。