「孫子 抜粋」-15
141.施無法之賞
無法の賞を施せ
賞は型通りでないものを与えることだ。
142.犯之以事、勿告以言
これを犯(おか)すに事をもってし、告ぐるに言をもってすることなかれ
人をなんとしても動かそうとする場合、事実を示してその気にさせるべきである。
言葉だけで動かせると思うな。
143.投之亡地、然後存、陥之死地、然後生、夫衆陥於害、然後能為勝敗
これを亡地(ぼうち)に投じて、然(しか)るのちに存し、
これを死地(しち)に陥(おとしい)れて、然るのちに生く、
それ衆は害に陥(おちい)りて、然るのちによく勝敗をなす
絶体絶命の窮地に立ち、死地に入ってこそ、そこに活路が生じる。
兵士たちは危険な目に陥って初めて真剣に勝負する気持ちになるのである。
144.為兵之事、在於順詳敵之意
兵をなすのことは、敵の意を順詳(じゅんしょう)するにあり
戦争するには、敵の身になって、その心理をよく知ることが肝心である。
145.始如処女、敵人開戸、後如脱兎、敵不及拒
始めは処女のごとくすれば、敵人、戸を開かん、後に脱兎(だっと)のごとくすれば、
敵拒(ふせ)ぐも及ばざらん
最初は処女のように弱々しく接すれば、相手はすっかり安心してしまう。そこを、脱兎のように
猛烈な勢いでぶつかれば、安心していた相手は到底防ぎきれないであろう。
146.凡火攻有五、一曰火人、二曰火積、三曰火輜、四曰火庫、五曰火隊
およそ火攻に五あり、一に曰く、人を火(や)く、二に曰く、積(し)を火く、
三に曰く、輜(し)を火く、四に曰く、庫を火く、五に曰く、隊を火く
火攻めには五つの目的と対象が有る。(むやみに火をつけても無意味である。)
第一に人員の殺傷、第二に野積みの糧秣、第三に物資輸送車、第四に倉庫、
第五に敵陣の混乱である。
147.行火必有因、煙火必素具
火を行うには必ず因あり、煙火(えんか)は必ず素(もと)より具(そな)う
火攻めを行うには、それを行うだけの理由が必ず有る。
火攻めは、ただ火をつければよいというものではない。
ふだんから、道具や材料をそろえておくこと。
148.発火有時、起火有日
火を発するに時あり、火を起こすに日あり
火をかけるには時と日を選ばねばならない。
149.凡火攻、必因五火之変而応之
およそ火攻めは、必ず五火(ごか)の変(へん)によりてこれに応ぜよ
火攻めには五つの心得が有り、条件に応じて活用せよ。
1.敵陣に火の手が上がったら、時を移さずこれに呼応して、外部から攻撃をかけること。
2.ただし、火の手が上がっても敵が静まり返っているときには、うかつに攻撃せず、
しばらく待機して様子を伺うがよい。そして、火力が盛んに
なるのを待った上で、攻めるべきか、 退くべきかを見定める。
何としても、冷静な判断が必要である。
3.火攻めは原則として、間者もしくは内応者によって、敵陣の内部から
火を放つべきものだが、条件が合ったならば、外から火をつけても差し支えない。
4.火は常に敵の風上に放ち、風下から攻めてはならぬ。
5.昼間の風は続いていても、夜には止むことを心得ておくがよい。
150.以火佐攻明、以水佐攻者強
火をもって攻を佐(たす)くるは明(めい)なり、水をもって攻を佐くるは強なり
火攻めによって主力軍の攻撃を援助するのは、知恵の勝負であり、
水攻めによって主力群の攻撃を援助するのは、力の勝負である。
この続きは、次回に。