認知症予防学 5
認知症の〝さけられるリスク〟
生活習慣病は認知症のリスクを高めます
⚫️ 生活習慣病(肥満、高血圧、動脈硬化、脂質異常症、糖尿病等)
生活習慣病は脳血管性認知症の危険因子となります。
肥満や高血圧により血液が脂質過剰となり、血管壁がぼろぼろになる と、脳梗塞を
起こしやすくなって、脳血管性認知症のリスクを高めます。
こうしたリスクはそれだけではなく、アルツハイマー型認知症の発症にも悪影響を
及ぼすものと考えられます。
⚫️ 頭部のけが—-転倒や交通事故で頭に外傷を受けると、若い人でも発症の原因となります。
認知症の〝さけられないリスク〟
生活改善で遺伝性のリスクを下げられます
⚫️ 遺伝—血液の中でコレステロールを運ぶ運搬役を務めるアポリポプロテイン(APO)の
遺伝子でApoE3/4型所有の人はアルツハイマー病になりやすい傾向があります。
しかしその所有者でも、75歳以上の後期高齢者になっても出現しない人がいます。
認知症になる前の段階から生活改善と予防を心がけることによって、遺伝性のリスクを
下げることができます。
⚫️ 性差—-アルツハイマー型認知症は女性に多い病気です。
女性ホルモンには神経細胞の活性低下を防ぐ働きがあるとされていますが、閉経後、
女性ホルモンの分泌が減少すると発症しやすくなります。
▶️「なってから」では改善効果が著しく低下
「認知症はがんと同じように進行性で回復不能の病気」という考え方は、最近では
新しい治療法とリハビリテーションの改善などによりだいぶ変わってきました。
早期の認知症の発症段階においては、さまざまな予防プログラムを毎日の生活習慣に
取り込むことによって進行の遅延や機能回復の兆しが見えてきたからです。
進行性の病においては早期発見が最も大切ですが、早期に治療を開始すると、
回復のための訓練もそれだけ容易になって、進行の度合いを遅らせることができます。
「——なってから」では改善効果が著しく低下してしまいますから、本当に大切なのは
早期発見の前段階、すなわち「なるまえ」の対応であると私は思っています。
脳卒中などで倒れたあとのリハビリテーションはとてもつらいものです。
平成の名力士だった小結・舞の海秀平は、現役時代に左膝内側副靭帯損傷の大怪我を負い、
二場所連続の休場を余儀なくそれましたが、そのときのことを「稽古よりも
リハビリテーションの方が苦しかった」といっています。
肉体を鍛錬する職業にある人が「辛い」というのはよほどのことでしょう。しかし、
「進行するまえ」の〝初・初期〟の段階ならば、そんな辛い思いをしなくてもすみます。
また、病気を患って体に損傷を受けてから治療に専念するよりも、ならないように
努力をすることの方が、ずっと気が楽で、日々の生活をエンジョイできますし、
防止効果も高まるのです。
健康な状態で行う散歩や体操、スポーツなどは趣味の範囲ですが、リハビリテーションとなると
「毎日、とても楽しみで—–」という人にはあまりお目にかかったことがありません。
認知症を予防するなら、楽しく、効率的に取り組んで長続きして欲しい、と思うのです。
〝なるまえからの心配り〟——-「転ばぬ先の杖」という認知症の予防こそが、
これからお話しする本書の主題でもあります。
この続きは、次回に。