認知症はもう怖くない ①
認知症はもう怖くない 止める・改善する・よみがえる
兵庫医科大学生理学講座 生体情報部門 主任教授 西崎 知之
三五館
西崎 知之(にしざき・ともゆき)
1954年兵庫県生まれ。現在、兵庫医科大学 生理学講座生体情報部門主任教授 医学博士。
神戸大学医学部を卒業し、神戸大、米国カリフォルニア大学アーバイン校と、一貫して
生体内情報伝達機構(細胞生物学・神経科学)を専門に研究している。
従来の認知症治療である「進行の予防」などとは一線を画した、「認知症そのものを治す」という
新たな治療法に取り組んできた。
新薬の研究・開発を通して「認知症のない未来」を実現させる、最先端に位置する医学者である。
はじめに
認知症は治らない——。
これが現代医学の常識とされています。
認知症は「不治の病」だというのです。
しかし冒頭の言葉からは、重要な一節が抜け落ちています。
まるで意図されたかのように大切な部分が欠落しているのです。
正しく言い換えるとこうなります。
認知症は、現在行われている標準的な治療法では、治らない—–。
現在、認知症患者の五割以上を占めているアルツハイマー型認知症は、アセチルコリンエステラーゼ
(分解酵素)阻害薬という薬を投与するのが主な治療法です。
その阻害薬の代表的な存在がアリセプトです。
要するに「認知症は治らない」という言葉は、「認知症はアリセプトでは治らない」と言って
いるようなものなのです。
製薬会社もそれを認めていて、アリセプトの「効能・効果」欄には「本剤がアルツハイマー型
認知症およびレビー小体型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない」と
記されています。
つまり、認知症が不治の病といわれているのは、本当の意味で認知症に効く薬がないからなのです。
おそらくこの先何年か経てば、認知症も「不治の病」とは呼ばれなくなるでしょう。
認知症を根本的に治す薬の開発も期待されます。
今現在、認知症に悩まされている人たち、そして明日にも認知症になるのではないかと
おびえている人たちは、どうしたらいいのでしょうか。
私は、今日の今日、認知症に悩まされている人たちに、今ある標準治療薬を処方してお茶を
濁すことはできません。
医師としての良心がそれを許さないのです。
そんな私の目に認知症という難病が映ったのは今から20年以上前のことです。
以来、認知症というモンスターとの闘いを続け、今も大学の自分の研究室で新薬の開発に
取り組んでいます。
その過程で生まれたのが、ホスファチジルコリン(正確にはDL/POホスファチジルコリン)です。
くわしいことは本文にゆずりますが、ホスファチジルコリンは現在、多くのクリニックなどで
使われており、認知症患者のみなさんに大きな光明をもたらしています。
病気の進行を遅らせるという一時しのぎではなく、脳の状態を健常時に戻しつつあるのです。
そして、すでに多くの臨床データが蓄積されています。
本書では、ホスファチジルコリンがなぜ認知症に効果的なのか、医療における認知症と脳の関係、
そして認知症を治す希望と可能性について書き記しました。
この本をお読みになれば、ご理解いただけるとおもいますが、「認知症は治る—、そんな時代が
やってきている」のです。
そうです、認知症はもう怖くないのです。
2015年2月 西崎 知之
この続きは、次回に。