池上 彰のやさしい経済学2 ニュースがわかる ④
日銀が目標を宣言してインフレやデフレを抑える
インフレあるいはデフレになったとき、何とかそこから脱出するための「インフレターゲット」と
いう金融政策があります。
その国の中央銀行、日本で言えば日本銀行が1年間の物価上昇率をこの程度にするように努力しますと
いう目標を最初から国民に向けて発表し、そのためにいろいろな努力をする政策です。
日本はデフレが続いてきました。そこで安倍晋三首相は、デフレ脱却のため、インフレターゲット論者の
黒田東彦氏を日本銀行の総裁に任命しました。
黒田総裁は、2013年1月、物価上昇率を2年間で2%引き上げることを目指すと発表しました。
インフレターゲット:中央銀行が一定の物価上昇率の目標(インフレ目標)を数値で示し、
その達成を優先する金融政策のこと。
インフレと失業率の関係
また、インフレと失業率には相関関係があります。
物価上昇率が高くなると失業率は低くなり、物価上昇率が低くなると失業率が高くなるという
相関関係です。
これに気付いたイギリスの経済学者フィリップスの名前をとってこれを「フィリップス曲線」と言います。
つまりインフレになっていくときは、一般的には景気がいいので失業率が下がるし、逆に
物価上昇率が下がっていくときは景気が悪くなってくるので失業率が高くなる。
フィリップス曲線: 賃金上昇率(インフレ率)と失業率とのあいだに、反比例の関係があることを
示す曲線。イギリスの経済学者フィリップスが1958年に提唱した。
インフレで困るのは年金や貯金で暮らす人である
では、インフレによっていちばん困る人は誰でしょうか。
それは高齢者です。
年金や預金だけで生活する人にとって、インフレというのは極めて深刻な事態になります。
これこそがインフレの大きな問題点であり、インフレになると大変だから何とかこれを抑えなければ
いけないということがこれまでの世界の常識になっていたのです。
物価スライド制:年金額の実質価値を維持するため、物価の変動に応じて年金額を買いステイすること。
低金利でデフレが進むとどうなるか
流動性の罠によって金利が低い状態でデフレが進むと、一体何が起きるでしょうか。
企業はお金を借りて新しい事業に投資をしようという気が起きません。
デフレで円の価値が上昇すると円高が進む
この日本の状況は、外国人の目から見るとどうでしょうか。
日本経済はよくないけれど、日本はデフレだから円を持っていれば、表向きは金利がゼロに
見えるけれど、実際には非常に高い金利がついているのと同じ状態です。
それだったらドルやユーロを持っているより円に換えておいたほうがいいという人が大勢現れます。
これによって円高が進みます。
円高が進めば、ものを輸出しようとしても高い値段になってしまうから、輸出がふるわなくなり
経済が悪くなる。経済が悪くなるということはデフレが進む、また円高が進んでいくという
悪循環に日本経済は陥ってきたのです。そうなると、お金はそのまま持っているのがいちばんという、
貨幣に対する愛情、貨幣愛が強まっていきます。別の言い方をすると流動性選好でしたね。
ものに投資しない、ものを買わない、お金で持っているのがいちばん安心なやり方、生活防衛の
ためにお金を使わないようになる。
みんなが同じことをすれば、ものが売れないという合成の誤謬が起きることになります。
日本経済がデフレでなかなか景気がよくならない。
何となく閉塞感というか、見通しがつかないというのはこういうことなんですね。
この続きは、次回に。