池上 彰のやさしい経済学2 ニュースがわかる ⑰
産業の空洞化—円高まねく工場の海外移転
円高によって引き起こされる現象としてとりわけよく言われるのが「産業の空洞化」です。
日本全体がシャッター通りになるようなものと考えてもらうとよいかもしれません。
「日本の為替介入」
円高基調が続いていた当時、日本では円相場の安定を実現するために繰り返し円売りドル買いの
為替介入が行われました。2011年10月31日、外国為替市場で円が戦後最高値の1ドル75円32銭まで
高騰したのを受けて、政府・日銀が単独での為替介入に踏み切りました。
10時25分一斉にスタートし、介入から1時間後には1ドル79円台まで円安が進みました。
しかしこの単独介入もむなしく、2週間後には1ドル77円台に戻ってしまいました。12月、財務省は
10月末からの為替介入が総額9兆916億円だったことを発表しました。
本来なら日本国内の工場で日本人を雇って国内の経済が発展していくはずですが、それが
海外へ流出してしまえば国の産業にぽっかりと穴が空いてしまうわけですね。
これが産業の空洞化です。
これを食い止めるにはどうしたらいいのか。日本でしかつくれないもの、高くてもみんなが買って
くれるもの、そういうものに特化していかないと、日本の産業は非常に苦しいということなのです。
震災後に円高になった理由1—アメリカと欧州の経済不安
3月11日の東日本大震災のあと、円が非常に値上がりしました。
日本経済が大打撃を受けた、普通なら円安になるだろうと思っていたら円高になったのです。
不思議ですよね。これには大きく2つの要因があります。
一つは、アメリカの経済です。
ドルが不安だからユーロに換えたのに、ユーロもだめだった。
こうして世界の投資家たちが次に安全なものとして円を選んだんですね。
円というのはすぐに換えられます。
世界でいつでも売買できるのが、ドル、次にユーロ、その次が円です。
いつでも欲しいものに換えることができる、これはケインズのときにやりましたね。流動性選好です。
いつでも換えやすいからみんなが円を買っている。
これは日本経済が発展するだろうと考えたから円に換えたのではなく、ドルもユーロもだめだから、
消去法で円が選ばれて雨宿りしたということです。
これが円高になった一つの理由です。
震災後に円高になった理由2—海外投資家の思惑
円高になったもう一つの理由は、震災後の日本について世界の投資家たちが「日本で大変な
震災が起きた。日本の損害保険会社は保険金の支払いのために莫大な額の円が必要になるであろう。
そのために、保険会社は世界中に持っている財産を処分して、それを円に換えて被災者に払うことに
なるのではないか」と考えたからです。つまり、日本の損害保険会社が資産を売却して得たドルや
ユーロを円に換えようとするから円高になる、その前に円を買って儲けようと考えたのです。
ここでぜひ皆さんに知っておいてほしいのは、これだけの大震災が起きると日本の損害保険会社が
世界中に持っている資産を売却して円に換えるだろうとみんなが思ったから円高になったということ。
つまり日本の企業は世界に莫大な資産を持っているということです。
これは損害保険会社に限ったことではありません。
日本のいろいろな企業が海外に莫大な資産を持っています。
日本の企業には世界からみればお金持ちの会社がたくさんあります。
日本に暮らしていると実感はありませんが、全体として日本という国はお金持ちだと見られています。
世界から見ると日本はお金持ちだから、大震災という大変なことが起きたのに円高になったんだという、
その日本の実力を知っておいてください。
Q 復習問題4
第1問 ブレトンウッズ体制でドルと金価格は固定された。
◯ 金1オンス=35ドルに固定された。
第2問 ニクソンショック以降、金価格は固定された。
× 金とドルの交換停止が宣言されたのがニクソンショック。
第3問 円高とは、ユーロに対して円の価値が上がることである。
× ユーロだけでなく他の通貨に対しても円の価値が上がること。
第4問 第二次世界大戦以前の基軸通貨は2である。
1.独・マルク
2.米・ドル
3.英・ポンド
× 3の「英・ポンド」。
この続きは、次回に。