池上 彰のやさしい経済学2 ニュースがわかる ⑲
長生きのリスクに備える年金保険
年金は長生きのリスクに備えるものです。
健康でたくさんお金があって、長生きできれば、すばらしいことです。
でも、仕事がない、あるいは年をとって収入がなくなった、蓄えがない、病気になるかもしれない。
長く生きているけれども、病気になったりして貧困にあえいでしまうというリスクに備えようと
いうのが、年金保険です。
誰でもそうなる可能性がありますから、みんな一緒に入ろうということで年金制度になりました。
年金保険のしくみ
年金保険は、よく2階建て、あるいは3階建てという言い方をします。
まず自営業者や学生が入るのが国民年金です。
企業に勤めている人は厚生年金です。
厚生年金の下の部分は、国民年金と同じです。
この部分を基礎年金と言い、自営業者や学生はこの部分しかもらえません。
厚生年金は、この基礎年金とその上の部分、まさにこれを2階建てというのですが、この部分まで
含めてもらえるわけですね。それは企業も年金保険料を積み立てているからです。
社員だけではなく、会社側も積み立てをしているから、その分高いお金がもらえるんですね。
そして公務員の共済年金。国家公務員、地方公務員、私立学校の先生が対象になります。
共済年金も下の部分は基礎年金になります。厚生年金と比べると、ちょっと共済年金の方が高い。
なぜ共済年金の方が高いかというと、中小企業は厚生年金だけですが、大企業は独自の企業年金を
上積みしている会社がけっこうあるんですね。
共済年金は、厚生年金よりちょっと高く、大企業の企業年金を上積みしたのと同じ水準にして
あるんですね。よく公務員は恵まれていると言われます。
中小企業の社員よりも、公務員の共済年金の方が受け取る額が多いのは、恵まれている一つの要素だと
言っていいでしょう。自営業の人は、国民年金だけでは満期40年加入でも月6.5万円くらいしか
入ってきませんから、これではとても足りない。
そのため、任意加入ですが国民年金基金があります。
積み立てから助け合いに変わった
田中角栄内閣のときに仕組みが変わりました。
自分で積み立てるのではなくて、若い人が納めたお金を、お年寄りに渡すしくみに制度が
変わったんですね。いま年金を受け取っているお年寄りが若いときに払い込んだ保険料は、
当時のお年寄りの年金に使われました。今度は皆さんが払い込んでいる保険料を、いまの
お年寄りが受け取るというしくみになっているんです。
これを日本の厚生労働省は「世代間の助け合い」という言い方で読んでいます。
年金制度の3つの問題点
年金制度には、大きく分けて3つの問題点があります。
まず若い人がどんどん減ってくる一方、お年寄りが非常に増えている少子高齢化の問題です。
さらに株式投資の失敗があります。年金は若い人が払い込んだ保険料をお年寄りが受け取って
いるわけですが、これまでお年寄りが積み立てていたお金もあり、プールされているお金が
たくさんありました。そのお金を増やすために、株で運用したのです。
バブルの頃は株の値段が上がったものですから、プールしておいたお金がどんどん増えました。
でもバブルがはじけて株価が暴落。その結果、一時は払い込んだ多額のお金が消えてしまったと
いう問題があります。さらに経営の失敗。その代表例がグリーンピアという施設です。
この3つの問題の結果、年金破綻の危機に瀕しているということになるわけですね。
この続きは、次回に。