池上 彰のやさしい経済学2 ニュースがわかる ㉕
日米の住宅ローンの違い
ちなみに、日本とアメリカでは住宅ローンの借り方に大きな違いがあります。
日本の場合、住宅ローンの返済ができなくなったら担保として土地や建物を銀行に取り上げられますが、
その土地や建物の値段が借りた金額より下がっていると、その差額はお金を借りた人が返し続けなければ
いけません。担保を取り上げられても借金が残ってしまうんですね。
一方アメリカでは、そもそも住宅ローンを借りるときにその土地や建物そのものを担保にしている
わけですから、返済ができなくなったら、担保を渡してそれでおしまいなんです。
本当はこっちが本来のやり方ですよね。ですから住宅ローンを借りる人もある意味、気が楽なんです。
ローンが返済できなくなったら、その家の鍵をローン会社に送って、本人が出て行けばそれで
おしまいです。その後ローンの残金という負債が残ることはありません。
ですから、高い金利でもサブプライムローンを気軽に借りる人が大勢いたわけです。
アメリカの住宅ローンは返済できなくなったら、担保を渡してそれでおしまい。
“リスクを他人に押しつける”しくみ
こうして、住宅ローン専門の金融機関がどんどんお金を貸します。
当然リスクを見込んで高い金利にしているのですから、リスクは少しでも減らしたほうがいいと
いうのが大原則です。ではリスクを減らすにはどうしたらいいか。他人に押しつけてしまえばいい。
自分のところに置いておかないで、さっさと手放してしまえばいいと考えたんですね。
住宅ローン会社が、マイホームを建てる人にお金を貸したとします。
住宅ローン会社は、お金を返してもらえる権利を持っていますね。
これが債権というものです。お金を貸した人は債権者となります。
住宅ローン会社は、このお金を返してもらう権利を、つまり債権を投資銀行に売ったのです。
例えば、住宅ローン会社が5,000万円を融資したとしましょう。当然高い金利がつきます。
ここでは利息を含めて6,000万円が返ってくると考えましょう。
つまりお客さんがお金を全部返してくれれば、最終的に債権の価値は6,000万円になります。
でも本当に6,000万円返ってくるかわからないので、住宅ローン会社はこの債権を投資銀行に例えば
5,500万円で売ってしまうのです。
住宅ローン会社にしてみれば貸したお金は5,000万円ですから、500万円の儲けが出ますね。
一方の投資銀行は、6,000万円の債権を5,500万円で獲得したわけです。
ただし投資銀行はお金が返ってこないかもしれないというリスクを背負い込んだことになります。
〝権利を売る〟という概念
投資銀行は、住宅ローン会社から債権を買います。
住宅ローン会社はその代金を受け取って、また別のお客さんに貸し出すことができます。
また新たな債権が獲得できました。
その債権をまた投資銀行に売って、その代金を別のお客さんに貸します。
住宅ローンを簡単に貸してくれるとなれば、みんなマイホームが欲しいわけですからどんどん
借りて住宅を買います。こうして住宅ブームが加速し、いつしかそれがバブルとなって、
サブプライムローンが膨らんでいったのです。
1929年の世界大恐慌の直前にも住宅バブルがあった
以前の授業で、1929年にアメリカで起きた株の大暴落がきっかけとなって世界大恐慌になったと
いう話をしましたが、実はそのちょっと前に、アメリカで住宅ブームが起きていました。
結果的にそれはバブルだったんですね。
家や土地を買えばすぐに値が上がるということになると、そのうちに住むためではなく転売しようと
いう目的で住宅を手に入れる人が続出しました。中には、その住宅を見ないで買う人もいました。
それから約80年後、再びアメリカで住宅バブルが起きたということです。
バブルはだいたい30年周期で起きるという話をしましたよね。
アメリカでは、1990年代末から2000年にかけてITバブルなんていうものもありました。
インターネットが普及しIT事業が拡大するのではないかと言って、次々に新しい会社を作って
会社の名前を○○ドットコムとつけるんですね。
それだけでその会社の株が飛ぶように売れました。しかし、まもなくこのバブルもはじけました。
中国の不動産投資事情
ちなみに、中国では住宅ブームが続いてきました。
上海などの都市部では高層のマンションが次々に建設され、完売しています。
しかし夜そのマンションを訪れると、ほとんど明かりがついていません。
つまり、このマンションを買った人々は自分が住むためではなく、転売して儲けようという
資産運用が目的だったということです。
何百世帯も入る高級マンションの、ほとんどの部屋が真っ暗。
あまり住みたくない気分になるわけですが、今中国には入居者がいないこのような場所が数多く
あると言います。これを中国の人たちは空前の住宅ブームと言ってきました。
住宅を買って転売すればすぐに儲かる、空前の好景気だと言っていたのです。
それを客観的に観ると何というか、それ以上は言いません。
債権の証券化という新しい金融商品
このようにして、投資銀行は住宅ローン会社から債権を買ったのですが、返してもらえないかも
しれないというリスクがあります。そのリスクを減らすためにはどうしたらいいか。
他の人にリスクを押しつければいいわけですね。
今度はその債権をもとに、また新しい金融商品を作りました。
それが住宅ローン証券というものです。
サブプライムローンの高い金利をもとにして、この証券を持っていれば毎月利息がもらえます。
あるいは満期になるとこれだけの利息がもらえますよという商品を作って銀行や金融機関に売ったのです。
もちろんサブプライムローンの利息を全部渡すわけではなく、差額を投資銀行が利益とするしくみを
つくりました。
投資銀行はサププライムローンの債権を組み込んだ新しい金融商品を世界中の金融機関に売った。
多様なものを組み合わせリスクを軽減する
住宅ローン証券を買う銀行にしてみれば、この証券そのものを買っても、サブプライムローンで
お金を借りた人がお金を返さなければ単なる紙屑になってしまうでしょう。
やっぱりリスクがあるんですね。
そこで投資銀行は、この証券をほかの債権と組み合わせてセットにして売りました。
いろいろなものを混ぜ合わせると全体としてはリスクが低くなる、これは金融経済の基本原則です。
これは、生命保険会社の考え方に似ています。お客さんがごくわずかだとやっていけませんが、
大勢のお客さんが一定数の人が亡くなっても、残りの大勢のお客さんたちが保険料を払って
くれるので経営が成り立つ。発送は同じです。
この住宅ローンを借りた人は逃げてしまうかもしれないけど、こっちの人は大丈夫だろう。
たくさん集まれば、全体としては安全性が高まってくる。
住宅ローンだけでなく、まったく違う会社が売りに出している株や社債も一緒にセットにしたら、
さらに安全だ。こうして、投資銀行は様々な金融商品を組み合わせて一つのパッケージにして
売りに出そうと考えました。
この続きは、次回に。