超ロジカル思考 「ひらめき力」を引き出す発想トレーニング⑩
✔️ サムスンの成長を支えた要因とは
さて、ここまでサムスンのビジネスモデルを解明してきたが、ここでもうひとつエクササイズを
やってもらう。
Exercise 3-3
サムスン電子のエレクトロニクス事業の「成長ドライバー」と「スイートスポット」を挙げてください。
☆ ヒント
ステップ2で挙げた成長戦略の立案プロセス(左記)を思い出してください。
① 将来の市場構造・事業構造・収益構造の可能性を解明する
② 成長のためのドライバーをリストアップする
③ スイートスポットを特定する
④ 成功要因を特定する
⑤ 経営インパクトを試算する
⑥ 仮説を検証する
⑦ 到達可能なゴールのフロンティアを描く
サムスンの売上成長の原動力は、何といっても新興国の成長ポテンシャルといえる。このため、
サムスンの売上高を定義すると、「売上高=Σ(新興国各国の市場規模×各国のシェア)」を合計した
ものであることを意味する。
こういう見方をすると、サムスンにとっての成長ドライバーは、「新興国各国においてナンバーワンの
シェアを取ること(シェアをあげること)であるといえよう。
ひとたびナンバーワンのシェアを取れれば、新興国の市場規模は勝手に大きくなっていくのだから、
成長の原動力を自社の収益構造の中に取り込むことが可能になる。
また、ここでスイートスポットが新興国であることは言うまでもないだろう。
✔️ アップルが成功を収められたのはなぜか
さて、サムスンのビジネスモデルを解明したところで、いよいよアップルのビジネスモデルが
どのように創りあげられたのかを見てみることにしよう。
Exercise 3-4
アップルの「成長ドライバー」「スイートスポット」「成功要因」が何かを考えてみてください。
☆ ヒント
ここでもステップ2で挙げた成長戦略の立案プロセスを思い出してみましょう。
ただし、アップルの場合はサムスンと比べて難しく、かつ創造的です。
アップルにとってターゲットとする市場セグメントとはどこだろうか。
それは熱狂的なアップルファンであり、革新的な製品を真っ先に使ってみたくなる、いわゆる
アーリーアダプターといえよう。マーケティング理論の中で、アーリーアダプターとは、新製品が
出た時にまっさきに買って試してみる人たちのことをいう。
これに対して、他の人の評判を聞いてから買い始める人たちのことをフォロワーと呼ぶ。
アップルがターゲットとするのは前者だ。
✔️ アップルのビジネスは「会員制」
iPod以降、アップルは戦い方を変えた。
何でも自前でまかなおうとするのをやめ、第三者のつくったコンテンツやアプリを流通させるための
プラットフォームとして自社を位置づけ直したのだ。
整理すると、アップルに取ってのスイートスポットは熱狂的なアップルファン、成長ドライバーは
「革新的な製品を出して熱狂的なユーザーの数を増やす」「iTunesやアップルストアの品揃えを
拡充して、ひとり当たりの購買額を増やす」「業界プラットフォーム戦略でネットワーク効果による
乗数を最大化する」の3つであるといえる。
✔️ ジョブズ自身もやりたくなかった「成功要因」
それでは、ここでアップルの成功要因に話を進めたい。
サムスンの成功要因の一つが地域専門家であったのと同じように、アップルにおいて目利きが
成功要因になっている。アーリーアダプターの目利きであるスティーブ・ジョブズだ。
ジョブズは自らデザインとテクノロジーについて造詣を深め、アーリーアダプターが何に喜びを
感じるのかを我がことのように理解できる力を身に付けた。
これが熱狂的なアップルファンの数を増やすことを可能にしたのは間違いないだろう。
もうひとつの成功要因は、第三者のコンテンツやアプリを流通させるプラットフォームを確立した
ことだ。成功要因とは目利きの育成のように簡単には真似できないことや、真似できたとしても
他社がやりたがらないことが多いことはすでに述べた。
業界プラットフォーム戦略、ジョブズ自身すらやりたがらなかった。
だからこそ成功要因になったのである。
✔️ ハージウェアとソフトウェアのすり合わせ
最後に、もうひとつ成功要因を挙げるとすれば、ソフトウェア技術になるだろう。
iPhoneが出たばかりのころ、ある日本のエレクトロニクスメーカーのエグゼクティブが
こんなことをいっていたのを覚えている。
「iPhoneを分解してみたが、我々に作れない新しい技術は何もなかった」。
しかしその後で、そのエグゼクティブはこうつぶやいた。
「ソフトウェアを除いてはね」。
日本のライバルメーカーがハードウェアのすり合わせにエネルギーを割いているころ、ジョブズは
ハードウェアとソフトウェアのすり合わせにエネルギーを注いでいたのだ。
つまり、日本のライバル企業に取って盲点だったからこそ、ソフトウェア技術の蓄積がアップルに
とっての成功要因になったのである。
✔️ サムスンのライバルは、アップルではなかった
さて、サムスンとアップルの収益構造と事業構造(成功要因)を解明したところで、市場構造についても
見てみたい(ステップ2で、ビジネスリーダーにとって解明しなければならない問題の構造とは、
市場構造・事業構造・収益構造であると述べたことを思い起こしていただきたい)。
サムスンとアップルは「盗った」「盗られた」と訴訟合戦をしている割には、市場をうまく
凄み分けていることがわかる。
ここから、サムスンにとっての真のライバルは、アップルではなくノキアであったことがわかる。
そして、それがいま中国の格安スマホメーカーに変わりつつあるのだ。
以上、サムスンとアップルの市場構造(スイートスポット)・事業構造(成功要因)・収益構造
(成長ドライバー)を見てきたが、同じような製品をつくっている企業同士であるにも関わらず、
市場の見方、事業の見方は全く異なっていることがわかる。
ただ、両社ともに、市場構造・事業構造・収益構造の間にはリンケージがあり、首尾一貫した
戦略になっている。それが両社が急成長できた理由である。
逆にいうと、いま目の前にある戦略が唯一かつ最善の選択肢だと思い込んでしまうことが極めて
危険であることがわかる。同じような事業であっても、少なくとも複数の成功する戦略が存在しうるのだ。
それを意識的に探求していくことが、未来を自ら創りあげることにつながる。
この続きは、次回に。