ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉒
✔️ ブレストはメンタルモデルを揃える
ブレストの第二の役割は、参加メンバーが組織の「価値基準・行動規範」を共有しやすい
ことです。
例えばIDEOのブレストでも、一般的なブレストのルール同様、互いのアイデアを肯定することが
尊重されます。
そしてこの価値基準は、「より突飛で大胆なアイデアを出す」行動を促します。
さらに、この行動規範はブレストの場を超えて、組織全体に浸透することが期待できます。
ブレストを繰り返すほど、多様なメンバーが入り交じって同じ価値を共有し、それが
日ごろの業務でも意識されるようになるのです。
経営理論では「シェアード・メンタル・モデル」がこの考えに近いといえます。
これは「組織学習では、組織メンバーがメンタル・モデル(=基本となる思考体系)を共有
していることが重要」という考えです。
先の価値基準・行動規範はまさにメンタルモデルです。
そしてトランザクティブ・メモリー同様、顔を突き合わせての直接交流のほうが組織は
シェアード・メンタル・モデルを高めやすい、という研究結果も出ています。
(例:米テューレーン大学のメモリー・ウオラーたちが2004年に「マネジメント・サイエンス」に
発表した研究など。
このように、ブレストは「その場でアイデアを出す」機能としては実に効率が悪いのですが、
他方でブレストの場を超えて、企業全体での学習能力を高める効果がある、というのが
サットンとハーガドンの主張なのです。
✔️ アイデアが出ないことを恐れるな
もちろんこれはIDEOという一企業の事例から得た結論ですから、どれだけ他企業に
一般化できるのかは分かりません。しかし、この結論が組織学習の理論と整合的なことも、
先に述べた通りです。
そして、もしこれらの主張が一般性を持つなら、日本企業への示唆も大いにあるのでは
ないでしょうか。
以下、私見を述べさせてください。
第一に、ブレストでは「アイデアが出ないことを恐れない」ことでしょう。
そもそもブレストとは、アイデアを出しにくいものなのです。
ブレスト中に「アイデアを出さねば」とプレッシヤーを感じたり、「いいアイデアが多く
出なかった」とガッカリしたりする必要はない、ということです。
第二に、ブレストをプロジェクトの初期段階ですることも重要かもしれません。
そもそもブレストには組織の記憶力を高めたり、価値基準を共有したりする役割が
あるのですから、早めの方がいいはずです。
✔️ 「ブレストだけで終わらない組織づくり」を
最後に、「ブレストだけで終わらない組織づくり」も重要でしょう。
そしてそのためにこそ、ブレストをうまく活用すべきなのかもしれません。
例えばありがちなのは、「日ごろ社員間の交流が乏しい組織が、突如人を集めてブレストを
一度やっておしまい」というパターンです。
しかし、これはトランザクティブ・メモリーやメンタルモデルを共有する視点からは、
かけ離れたやり方です。
社員はその瞬間だけアイデア出しをして充実感があるかもしれませんが、その後交流が
パッタリ止まってしまっては、ブレストを通じてせっかく高まりそうな組織の記憶力を
うまく使えません。
そうではなく、企業内から多様なメンバーを幅広く慕って、メンバーを少しずつ入れ替えながら
何度もブレストをする方が、長い目で見ると記憶力が高くクリエーティブな組織づくりに
結びつく、といえるのではないでしょうか。
このように、「アイデアを出す」のが目的のブレストですが、真の効用はそれ以外の
ところにあるのです。ブレストをするみなさんは、「アイデア出し」だけにとらわれず、
ぜひこういった裏の効能を意識してみてください。
この続きは、次回に。