ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉕
Part5 グローバルという幻想
第11章 真に「グローバル」な企業は、日本に3社しかない
最近はとかく「グローバル」という言葉をよく耳にします。
そもそも「グローバル化」とは正確に何を指すのか、「グローバル企業」はどのくらいあるのか、
などの基本知識を我々が十分に共有していないからかもしれません。
そこで本章と次章では、最先端の経営学における「グローバル」の知見を紹介していきましょう。
まずは「グローバル企業」です。
実は、近年の世界の経営学では「グローバル企業はほとんど存在しない」と主張されています。
それどころか、これは学者たちのコンセンサスになりつつあると言って良いかもしれません。
本章は、なぜこのような議論が起きているかを紹介しましょう。
✔️ そもそもグローバル企業とは?
そもそもグローバル企業とは、何なのでしょうか。
色々な定義があると思いますが、真にグローバルな企業の条件の一つは、「世界で通用する強みが
あり、それを生かして世界中でまんべんなく商売が出来ている」ことではないでしょうか。
例えば優れた商品・サービスを持つ企業であれば、それは世界中で売れるはずです。
もちろん国ごとに消費者の好みや商慣習は違いますから、現地に適応することは必要です。
とはいえ、商品力・技術力・あるいは人材・ブランドなどが圧倒的に強い世界的企業なら、アジア、
北米、欧州を問わず、どこでも成功できるはずです。
このような、海外で成功する企業の強みのことを、経営学では「企業固有の優位性(Fine Specific
Advantage,FSA)」と呼びます。では仮に、FSAを持って世界中でうまく商売できている企業、
すなわち「世界中からまんべんなく売り上げを得ている企業」を「真にグローバルな企業」と
しましょう。このような企業はどのくらいあるのでしょうか。
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ではこの分析を通じて、真のグローバル企業はどのくらいあったのでしょうか。
ラグマンらの分析結果は、実は興味深いものでした。本稿で重要な結果は、以下の二つです。
発見1. ホーム地域の強い依存:
分析から365社のうち実は320社が、売り上げの半分以上をホーム地域から上げていることが
わかった。逆に言えば、ホーム地域からの売り上げが半分を超える企業(ホーム地域に依存しない
企業)は、45社しかない。
発見2: 真のグローバル企業は9社だけ:
さらにこの45社のうちで、ホーム外の2地域(フランス企業なら、北米とアジア太平洋)の両方から
それぞれ2割以上の売り上げシェアの売り上げシェアを実現できている企業、すなわち「世界の主要
三地域で、まんべんなく売り上げている企業」は、9社しか存在しない。
✔️ 「真のグローバルな企業」はほとんど存在しない
現実には、そのような「真のグローバル化」を実現させている多国籍企業は、2001年時点で世界中
見渡しても9社しかなかったのです。
ちなみにこの9社はIBM、インテル、フィリップス、ノキア、コカ・コーラ、フレクストロニクス、
モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン、そしてソニーとキャノンです。
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このラグマンの2004年論文以降の国際経営学は、「企業のグローバル化」という概念を「盲目的に
単純化させてはならない」という流れになっています。
✔️ 真のグローバルな日本企業は?
では日本企業については、どうでしょうか。
ラグマンは、その後2008年に英ウォーリック大学のサイモン・コリンソンと共同で「ジャーナル・
オブ・インターナショナル・ビジネス・スタディーズ」(JIBS)に日本企業に特化した論文を発表して
います。この論文で「世界三地域でまんべんなく売り上げている真のグローバル企業」という結果に
なったのは、上記のソニー、キャノンに、マツダを加えた3社だけでした。
✔️ 2014年の「真のグローバルな企業」は
2015年にフォーチュン500社に選ばれた日本企業は、全部で54社でした。
この10年余りで、10社減ったことになります。このうち2014年のアジアへの売り上げデータが取れた
43社について計算すると、日本を含んだアジアからの売り上げが半分を超える企業は36社となりまし
た。そして「真のグローバル企業」の条件を満たしたのは、キャノンとマツダだけになりました。
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✔️ グローバルに通用する強みと、アジアだけで通用する強み
2004年にラグマンらのJIBS論文が発表されて以降、世界の経営学におけるグローバル企業の考え方は、
大きく転換しました。先ほど述べたように、それ以前の経営学では、企業が海外ならどこでも通用する
固有の強み(FSA)を持っていると考えられていました。
しかし、そのような「世界中で通用するFSAを持っている企業」はこの世にはほとんどないことが
明らかになったからです。
さらに、大部分の多国籍企業は、売り上げの半分以上を本社のある地域から上げているのです。
フランス企業はやはり欧州で強みを発揮しやすく、日本企業はアジアで強みを発揮しやすいのです。
ラグマンたちは、これを企業の「地域特有の強み(Regional Specific Advantage,RSA)」と呼んでいます。
したがって日本企業にとっては、「自社のアジアで通用する強み(RSA)が、そのまま世界中で通用する
FSAとはならない」という認識を持つことが肝要だ、と私は考えます。
RSAとはFSAは明確に区別されるべきなのです。
まんべんなく三地域で成功している企業は、世界中見渡してもほとんど存在しないのです。
この前提をもって、これからの日本企業の国際化における戦略や資源配分を考えていくことが重要だ、
と私は考えています。
この続きは、次回に。