ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉞
Part7 科学的に見るリーダーシップ
第15章 これからのリーダーシップに向くのは、どのような人か
今の日本のビジネスメディアで最も使われる言葉の一つは、「リーダーシップ」でしょう。
言うまでもなく、企業・組織を率いる個人にどのようなリーダーシップが必要かは、重要な経営
課題です。
一方で、世界の経営学でも、リーダーシップは当然必要ながら重要な研究テーマです。
それこそ、「リーダーシップ・クオータリー(The Leadership Quarterly)」という学術誌がある
くらいです。本章と次章では、リーダーシップについて世界の最先端の経営学の知見を紹介しま
しょう。
そのためには、まず経営学でコンセンサスとなりつつある「2種類のリーダーシップ」について
解説する必要があります。
リーダーシップには2種類ある
その二種類とは「トランザクティブ・リーダーシップ」と「トランスフォーメーション・リーダー
シップ」です。
欧米のリーダーシップ研究者で、この区分けを知らないものはいない、と言ってもいいかもしれ
ません。
まずトランザクティブ・リーダーとは、部下の自己意志を重んじ、まさに取引のように(=トラン
ザクティブ)部下とやりとりするリーダーです。
部下に対して「アメとムチ」をうまく使うタイプのリーダー、ともいえます。
さらにこれまでの研究で、トランザクティブ・リーダーシップは三つの資質に分解されることも
わかっています。
第一は「コンティンジェント・リワード」です。日本語では「状況に応じた報酬」とでも呼べば
いいでしょうか。これは、成果を上げた部下に対して正当な報酬をきちんと与えることです。
ここでいう「報酬」は金銭的なものや昇進だけでなく、例えば「よくやった」と声をかけるような
ことも入ります。
いずれにせよ、部下が自分の成果に対して「きちんと評価されている」と満足できることで、
そのさらなる行動・成果を促すことを意味します。
第二と第三の資質は関連しています。両方とも英語では「マネジメント・バイ・イクセプション」と
いうのですが、それがさらに第二の資質「能動型」と第三の「受動型」に分かれます。
こう書くと抽象的ですが、要はどちらも「部下が犯す失敗にどう対処するか」ということです。
能動型は、部下が何か問題を起こす前に「そのままだと失敗するぞ」と介入するタイプのことです。
受動型は、部下が失敗しそうでも敢えてそこで介入せず、実際に失敗してから問題に対処するタイプの
リーダーです。なお、この三つの資質は、必ずしも互いに相いれないものではなく、一人のリーダーが
複数の資質を持ち得ます。
トランスフォーメーショナル・リーダーシップとは
もう一つのリーダーシップは「トランスフォーメーショナル型」です。
1980〜90年代に米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のバーナード・バスが初めて分析して以来、
この概念は世界のリーダーシップ研究で極めて重要なものとなっています。
先のトランザクティブ型リーダーは「アメとムチ」を重視しますが、トランスフォーメーショナル型
リーダーが重視するのは「啓蒙」です。
このタイプのリーダーは、四つの資質から構成されます。
すなわち(1) 組織のミッションを明確に掲げ、部下の組織に対するロイヤルティーを高める、
(2) 事業の将来性や魅力を前向きに表現し、部下のモチベーションを高める、
(3) 常に新しい視点を持ち込み、部下のやる気を刺激する、そして
(4) 部下一人ひとりと個別に向き合いその成長を重視する、の四つです。
よくいわれる「カリスマ型リーダー」は、これに近いかもしれません。
日本では「革新的リーダー」という言葉も使われますが、これもトランスフォーメーション型に
近い意味会いではないでしょうか。
この「トランスフォーメーショナル」と先の「トランザクティブ」もそれぞれ異なる概念ですが、
これらもまた一人が両方の資質を持ち得ます。
リーダーシップの種類は、業績に影響する
ではこれらの資質のなかで、特に組織の成功に重要なのは何でしょう。
メウェたちは過去の実証研究39本を使って、リーダーシップの資質と組織パフォーマンスや
部下の満足度との関係について、メタ・アナリシスを使いました。
そしてその結果、「トランスフォーメーショナル型の4資質は、組織パフォーマンス・部下の
満足度の何とも正の相関を持つ」「トランザクティブ型の中では、第一の資質『コンティンジェント・
リワード』が部下の満足度と正の相関がある」という結果となりました。
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
この続きは、次回に。