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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 -55

第25章 大学の裏事情は、中国人が一番知っている

 

本章では、世界のビジネススクールの情報戦に勝つのは誰か、という話をしようと思います。

そして、そのためにまず理解していただきたいのですが、「インフォーマルな知」の重要性です。

 

✔️ 知識はインフォーマルなものこそ重要

 

第12章でも述べたように、ベンチャーキャピタル(VC)投資や起業活動が一定の地域に集積する傾向が

あることは、経営学ではよく知られています。米国ならシリコンバレーがその代表です。

なぜなら、起業するには、人と人が直接会うことを通じてしか得られない「インフォーマルな情報・

知識」がとても重要だからです。

文書のやりとりでは出てこないような「内輪の話」を得るために、起業家はシリコンバレーなどに

集積するのです。

「いまの時代はインターネットがあるじゃないか」という方もいらっしゃるでしょう。

確かにインターネットのおかげで、いまは世界中どこでも同じ情報が手に入りそうに思えます。

しかし考えてみてください。みなさんが「これは新しい商売のネタになりそうだ」と思えそうな情報を

仕入れたら、それをわざわざネットで文書にして公開するのでしょうか。むしろ信頼できる知人と

食事でもしたときに、「ここだけの話だけれど」などと言って打ち明けるのではないでしょうか。

このように商売のネタになるような情報は、人と人の関係を通じてしか得られない、口コミなどの

インフォーマルなものが多いのです。さらに、いま起業が盛んなIT(情報技術)やバイオ関係など知識

集約型のビジネスでは、そもそも文書化が難しい、いわゆる「暗黙知」が重要になることも多いで

しょう。また、起業では優秀な人材を獲得することも重要ですが、こういった人材は別の人を介した

インフォーマルな「つて」で知り合うことが多いですし、またその人に直接会って「目利き」をする

必要もあります。したがって多くの起業家はインフォーマルな情報、そして優れた人材を求めて一定の

地域に集積するのです。ところが、最近はたとえば米国のシリコンバレーと台湾の新竹地域、シリコン

バレーとインドのバンガロールなどの間で、起業家やエンジニアが国境を越えてインフォーマルな

情報・知識をやり取りするようになっています。

これまではローカルだったインフォーマルな知識が、国を超越して行き来するようになっているのです。

そしてこのように国と国の間ではなく、ある国の都市と別の国のある都市の間をつなぐグローバル化に

ついて、私が2011年に「ストラテジック・アントレプレナーシップ・ジャーナル」(SEJ)に発表した

論文では「スパイキー・グローバリゼーション」と名付けたことも、第12章で述べました。

 

✔️ 台頭する超国家コミュニティー

 

そして、このような国際間のインフォーマルな情報の行き来の索引役が「移民ネットワーク」である

ことが、最近の研究で明らかになりつつあります。

例えば、米デューク大学の調査によると、1995年から2005年にシリコンバレーで設立されたスタート

アップのうち53%は、設立メンバーに移民がいるそうです。

このような人たちが米国で事業に成功して、やがて本国と米国を足しげく往復することで、これまでは

一定地域に集積していたインフォーマルな情報・知識が、国境を越えて「飛ぶ」ようになってきている

のです。

先程申し上げたスパイキー・グローバリゼーションも、この移民ネットワークが索引している可能性が

あります。

先の私のSEJ論文では、VC投資のパターンがスパイキー・グローバリゼーションになっていることを

示した上で、そのパターンに影響する要因を検証したところ、やはり世界各国から米国の各州への

移民のパターンがスパイキー・グローバリゼーション化しており、VCの投資パターンと強い相関が

あることを明らかにしています。ところで、このような超国家コミュニティーが興隆しているのは、

起業分野だけではありません。実は、まさにアカデミックの世界、中でも私がいた米国の「ビジネス

スクール業界」で、その台頭が顕著なのです。

 

 

この続きは、次回に。

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