人を動かす経営 松下幸之助 ⑲
・ 満場一致の賛成を—誠意をもってあたる
お互いが物事を進めていく上で大切なことはいろいろあるが、中でも誠意を持って事にあたるという
ことは、非常に大事なことだと思う。
たとえ困難な問題に直面したとしても、つねに誠意を保持して、ひたすら努力を続けていったならば、
その困難が困難でなくなってくる、ということもあるのではなかろうか。
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そこで私は、大阪の千二百軒の販売店に集まってもらい、新販売制度についてくわしく説明し、その
実施をお願いした。
お願いした結果、どういう反応が見られたか、快く賛同してもらったか、というと、これは、そんな
簡単なものではなかった。出席した店の人々に意見を聞いてみると、まことに厳しい。
出てくる声は、反対の声、非難の声ばかり、といってもいい状態である。
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そこで私は、「それではみなさん、賛成してくださいますか」とたずねた。
すると、半分くらいの人たちがパチパチと手をたたいてくれた。しかし、他は沈黙を守っている。
私は、これではいけない、これで話がすんだと思ったら大変な間違いだ、というように思った。
そこで、さらに力をふりしぼって話を続けた。
「ようやく、みなさんが一応ご理解くださったようで、いま半分ほどの人が手をたたいてください
ました。大変ありがたいと思います。しかし、この仕事は、一部の人が賛成するということでできる
仕事ではありません。これは松下がする仕事ではないのです。これはみなさん自身の仕事なのです。
みなさんが率先してやっていただかなければ、この仕事はできません。
それほど重要な仕事なのです。
私がいろいろ話をしているので、いつまでも反対するのもいけないだろうと、ただ沈黙を守っている
ようでは必ず失敗します。だから、みなさん自身の仕事として、率先垂範するという意味でやって
くださるかどうか、ということまで私はおたずねしたいのです。
それほど大事な仕事だから、徹底的に賛成してほしいのです。
満場一致で賛成していただきたいのです」
このようなことを私が、また一時間ほど話したところ、大拍手がおこった。
こんどはぜんぶが手をたたいてくれた。
満場が拍手につつまれた。私はうれしかった。感激した。これでできる、と思った。
勇気がわいてきた。大阪でこの新販売制度が実施できれば、神戸や東京でもできる。
実際のところ、それはできた。それで新販売制度を全国で実施することができた。
その結果、販売店の経営も向上し、販売会社の経営も向上していったのである。
私はやはり、誠意を持って事にあたればやっていける、ということを感じた。
いい意味の、善意の説得力というものが、いかに大事かということである。
善意の説得力がなかったらならば、お得先も失ってしまうであろう。だから販売店からは、相当強い
反対があったけれども、新販売制度がなんとか軌道に乗ったということは、やはり善意の説得力と
いうものが、その根底をなしているように思うのである。
この続きは、次回に。