人を動かす経営 松下幸之助 ㉔
・ その気にさせる—明治時代の税務署のやり方
どんなに自分にとってありがたい内容の話であっても、その話をする態度に横柄なところがあったり、
高飛車なものが感じとられたならば、その話を断ってしまう、というのが人間の一面である。
反対に、多少自分にとっては負担がかかり、ありがたくない話ではあっても、その話をする態度が
非常にていねいで、しかも誠意あふれるようなものであったならば、コロリとまいってしまうのも
人間の一面の姿であろう、まことに、人間とはふしぎなものである。
われわれは、こうした人間の一面を正しく認識して、日々の生活、活動に適宜生かしていくことが
大切ではないだろうか。
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
私は、この話を聞いて感心した。昔はお役所もうまいやりかたをしたものだと思った。
新たに所得税を取るから納めろ、ということを、権力をカサにきて強圧的にやったのではない。
もしも強圧的にやっていたならば、当然そこには反発も起こり、スムーズな納税も期待できなかった
であろう。しかし、当時の税務署はそれを実にうまくやった。
時代からいうと、まだまだ封建的な考え方の強い、いわゆる官尊民卑の風潮の濃い時分である。
だから、一片の通達を出すなり、役所へ呼びつけて命令するなりしても、それはそれで通った時代で
ある。ところが、そういうことはせずに、一流のお茶屋へ招待し、税務署長じきじきに協力を依頼して、
一杯のませることまでしたというのである。
これは、まことに巧みなやり方ではなかろうか。つまり、相手はお役人だから、頭ごなしに命令され
るのかと思えば、そうではなく、丁重にもてなされ、上座にすわらされて厚く遇される。
これでは、何を頼まれても、イヤだとはいいにくい。まことに心にくいやり方である。
いわゆる人情の機微というものを十分にわきまえたやり方だといえよう。
今日のわれわれも、公務員といわず、民間人といわず、こうした人情の機微を十分に考慮して事を
進めていくことが、非常に大事なことではないかと思うのだが、どうであろうか。
この続きは、次回に。