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IoTビジネス入門 ⑧

■   家庭用スマートロックを不動産で利用する

 

例えば、あなたは不動産会社の営業マンだとします。

お客様からの内見の依頼を受けて、様々な物件を見に行かなければなりません。

通常、カギは物件を管理する会社や大家さんが持っているので、内見の前には管理会社や大家さんに

電話連絡をし、カギを取りに行って内見をする、という段取りになります。

1軒だけならともかく、3件も4件も内見しようと思うと、移動距離も調整の時間もかかります。

そこで、空室の物件にスマートロックが付いているとどうでしょう?

 

先ほどの説明でわかるように、スマートロックはスマートフォンのアプリで開けることができ、イン

ターネット越しに管理者が権限を渡したり、剥奪したりできるので、「内見をしたい」と思ったら、

管理会社や大家さんから物件のカギを開ける権限を受け取る(あなたのアプリに権限をつけてもらう)

だけて内見が可能になるのです。

このスマートロックによって生まれるこれまでになかった価値は、お客さんの時間の無駄を省く(顧客

満足度を上げる)だけではありません。

気になる物件を乗り気なうちに見た方が成約率は格段に上がるので、結果的に不動産営業マンである

あなたの営業成績は上がります。管理会社や大家さんの成約率も上がります(空室率が下がる)。

三方よしの結果となることがわかるでしょう。

 

しかし実際は、そう簡単に導入まではいきません。

なぜなら不動産業界は体質が古い業界で、やり方を変えたがらない大家さんや不動管理会社も多い

からです。

実際に、1件だけにスマートロックがついていても、不動産営業マンにとってもメリットは少ないし、

決して便利になったとは言えないでしょう。

一方、すべての家にスマートロックがついていたとすると、営業マンも管理会社の担当者も、大家さんも

とても便利になったと思うはずです。

まずは、1社で多くの物件を抱えている、意思決定してもらいやすい企業での導入をすすめ、利便性が

追求できたところで社会インフラまで育てる、という道のりを経ることで状況は変わってくるはずです。

 

■   家庭用スマートロックを介護ビジネスに応用する

 

スマートロックは、不動産業界での利用以外に、老人の見守りに利用する応用も進んでいます。

第5章でも述べますが、老人介護の問題は、高齢化社会における大きな社会問題で、老人が徘徊して

いないか、外出後ちゃんと帰宅しているか、などを知ることは、特に家族にとっては重要な関心事です。

実際、老人が家の外で思わぬケガをして助けも呼べず、うずくまっているといったケースも多いのです。

そこで、このスマートロックを利用すると、老人の外出状況や、何日間も家の中に居続けている、と

いった状況を知ることが可能となります。

見守り隊などのヘルパーは老人世帯につけられたスマートロックの動作状況を見ることでその世帯の

状況をある程度把握できるのです。

この例では、ヘルパー不足を補い、思わぬケガをして動けなくなっている老人の様子もなるべく早く

発見できるという、新たな価値が生まれます。

 

■   IoTの本格的な普及に必要なこと

 

ここまでスマートロックの例で見てきたように、IoT製品をつくっても、「単につくっただけでは、

なかなか本格的には普及しない」という壁があることがわかりました。

この壁を乗り越えるために不動産業界への応用や、介護への応用といった「着眼点を変える工夫が

必要な場合がある」ことについて見てきました。

しかし、どんなに工夫をしても多くのヒトが利用しないと結局はその恩恵にあずかれません。

では、どういうモノであれば本格的な普及が見込めるというのでしょうか。

 

インターネットの普及を例にとると、インターネットは、今までなかったけれども、追加でパソコンと

いうモノの購入が進む中で広がってきました。

インターネットが登場するまでは、新聞やテレビといったオールドメディアからしか情報を収集する

ことができず、しかも、そういったメディアの利用はあくまで受動的な情報収集でした。

しかし、パソコンとインターネットを手に入れてから、私たちの情報収集は能動的になりました。

つまり、われわれは、パソコンを「追加しただけ」で生活を変えることができたのです。

一方で、特に消費者向けのIoTでは、単にモノを追加するのではなく、「これまで慣れ親しんだ(しかも

安価な)モノを(高機能なモノに)置き換える」必要があるのです。

スマートロックの例のように、たとえ置き換えが進んだとしても、これまでの生活習慣を変えないと

いけない場合や、カギという使いなれたモノを違う使い方で利用しなければいけない場合もあります。

 

しかし、圧倒的なコスト削減効果や、圧倒的な利便性による生活者の指示があれば状況は変わります。

 

たとえば現在、みなさんは電車に乗るとき、自動改札機にカードをかざすのが当たり前になっていると

思います。JR東日本がSuicaを導入したとき、しばらくは発券機で切符を買う人もいたものでした。

しかし、今となってはほとんどの人が切符を購入しなくなったのではないでしょうか。

他にも、かつて、レコードデッキ、アンプ、スピーカーと別々のモノを組み合わせて利用していた

オーディオは、今や音楽を再生する機能はiPodのような一つのモノとなり、さらには「iTunes Store」

などのインターネットサービスに接続することで、いつでも、どこでも音楽を購入し、ダウンロード

できるようになりました。

さらに価格面を考えると、みなさんのつくるIoT製品が、既存のモノの延長上にある場合は、これまでの

価格よりぐっと安くなる(100分の1、1000分の1といった単位で)ことでも、一気に普及が進むでしょう。

IoTの本格的な導入には、こういった突出した利便性、もしくは、価格破壊について追求できることが

重要なのです。

 

 

この続きは、次回に。

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