危機の時代 ジム・ロジャーズ ⑥
・経済危機で大儲けした人々
しかしながら大恐慌で稼いだ人がいなかったわけではない。
世界には危機の中でお金を稼ぐ人が常にいる。
例えば、米国にはアレン兄弟という有名な投資家がいた。
ロイ・ニューバーガーという男もいた。
元気だったころのニューバーガーと会った際に、彼はこう話していた。
「投資とは、靴ビジネスのようなものだ。私は靴を買い、靴を売る。
あなたも靴を買い、それらを売る」と。
靴も株も、安い時に買い、高い時に売れば、儲けはついてくるものだ。
ジョン・テンプルトンも忘れてはならない。
みんなが売るタイミングで買い、みんなが買うタイミングで売る—。
そんな「逆張り」の投資手法がテンプトンの持ち味だった。
彼は数多くの格言を残している。
「他人と同じことをすると、他人と同じ結果しか得られない」「『今回こそは
違う』という言葉は、最もコストが高い過ちだ」「最も悲観的なときが
買い時であり、最も楽観的なときが売り時だ」—-。
こうしたテンプルトンの言葉は時代を超えて、投資家たちに語り継がれてきた。
テンプルトンは、1930年代に、ニューヨーク証券取引所で、1株1ドル以下だった
104社の上場企業の株式をそれぞれ100株購入した。
そのうちの30社以上が破綻したが、残りの約70社の株価は大幅に上昇。
1942年に売却したところ莫大な利益が出た。
テンプルトンは非常に金持ちになり、彼の会社は米国で最も有名な投資
会社の1つになった。
多くの成功した投資家は、危機のさなかにチャンスを見つけている。
ほかの人と同じことを考えず、自らの考えに沿って投資することで道を
切り開き、成功を手にした。
・危機の最大の犠牲者はミドルクラス
世界的な経済危機が起きると、一番大きな被害を受けるのはミドルクラス
(中流階級)の人々だった。
仕事を失い、お金を失い、子供たちの教育の機会を奪われた人々はいつも
怒り狂う。それは歴史を通じて、何度も繰り返されてきた。
21世紀にも似たようなことが起きた。
リーマン・ショック後に「ウォール街を占拠せよ」という大規模なデモが
ニューヨークで発生した。
政府による金融機関救済や、富裕層への優遇措置を厳しく批判するもので、
デモ活動は半年にわたって続いた。
その本質は、19世紀末のコクシーズ・アーミーや1932年のコックスズ・
アーミーと共通している。
経済危機により、大事なものを失った中流階級の不満と不安は常に高まるものだ。
・生活苦になった人々は怒りのはけ口を求める
経済危機が起きると、多くの国で大学教授や政治家が、「不況で中流階級が
減少している」と指摘する。
すると中流階級の怒りに火が付き、政府や金持ちに対する大規模な抗議活動へと
発展する。
経済が悪くなって、生活が苦しくなった人々は、いつの時代も怒りのはけ口を
求めるものだ。これは深刻な危機が起きた時に、常に起きている。
彼らはなぜ自分たちが不幸になったかという理由は知らないかもしれないが、
自分たちが実際に不幸であることは知っている。
危機が起きると、金持ちだけでなく、外国人もターゲットになる。
失業が増えると、「外国人が仕事を奪っている」と非難する声が瞬く間に高まる。
外国人と金持ちは、人々が悲鳴を上げながら誰かを糾弾しようとする際に、
いつも標的にされる。
そういう時は経済学の基本に立ち返るべきだ。
人々がお金をたくさん儲けて幸せになって、毎晩クラブで踊っていても、
何か間違っていたわけではない。むしろ危機が起きているのは、それまでの
世界を変える何かが起こったことを意味している。
今、すでに始まっている危機も、取るに足りないように思えた問題が重なって、
雪玉が坂を転がり落ちるように大きくなっていった結果、起きている。
一見すると小さな取るに足りないような問題が連鎖して、大きな問題へと発展する。
危機が起きると、新聞の一面に恐ろしいニュースが掲載され、多くの場所に
不幸な人々が出現する。
この続きは、次回に。