Coffee Blake-令和3年1月14日(木) 「語る新年展望5」
令和3年1月9日読売新聞掲載の「語る新年展望5」について、ご紹介致します。
少しでも、知識としてご享受いただければ幸いです。
2021年1月14日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美
語る新年展望5
人口減 生産性向上カギ
小西美術工芸社社長 デービッド・アトキンソン氏
1965年(昭和40年)英国生まれ。英オックスフォード大日本学科卒。
ゴールドマン・サックス証券の共同出資者などを経て2009年、文化財
修復を手がける小西美術工芸社に入社。11年下に社長。
15年出版の観光立国に関する著書が菅首相(当時は漢方長官)の目に留まり、
以来、菅氏のブレーンとされる。政府の成長戦略会議のメンバー。
最低レベル
日本が直面する最も大きな課題は、加速する少子高齢化と人口減少です。
労働力は2060年までに3000万人ほど減るといわれています。
膨張する社会保障費は現役世代にのしかかり、負担は倍増します。
遅かれ早かれ、全ての日本国民が向き合わなくてはならない現実です。
国家の経済成長は人口と生産性で決まります。人口が減り続ける以上、
生産性を向上させ、働き手の所得水準を高めなければ、日本の社会シス
テムは維持できません。
日本の生産性は先進国で最低レベルにあるので、伸び代は大きいです。
日本政府はこれまで、「働き方改革」など生産性向上のための経済政策に
取り組んできましたが、対象は主に大企業でした。日本全体の生産性を
大きく向上させるには、全企業の99.7%、雇用の7割強を占める中小企業に
切り込む必要があります。
日本の生産性が低いのは、先進諸国に比べて企業規模が極端に小さい
からです。米国の半分、欧州の3分の2程度の規模です。
企業規模は生産性と密接に関わります。規模が大きくなれば生産性は
上がり、小さくなれば下がるのは、経済学の大原則です。
他の先進国に比べ新型コロナウイルスの感染拡大の影響が相対的に少ない
にもかかわらず、中小企業の多くが経営に深刻な打撃を受けた最大の理由は、
生産性向上に手を付けてこなかったことです。
新型コロナによって、隠れていた日本の産業構造の弱みが表面化したに
すぎません。
規模のメリット
そして、中小企業の再編や統廃合を進めるために最も有効な手段が最低
賃金の引き上げです。賃金が高くなれば、経営者は人件費を抑えようと
経営努力をし、機械化などへの投資にも資金を割くようになります。
経営が耐えられなくなれば、自然に統廃合も進みます。
企業規模が大きくなることで経営に余裕が生まれ、新たな研究開発や
技術革新も生むのです。
企業数が減ると失業者が増えるという議論がありますが、これは人口増加
時代の考え方です。
高度経済成長期は確かに中小企業が雇用の受け皿になっていましたが、
今の日本では労働力が減少しています。
企業数が減っても労働者は集約されるだけで、雇用は守られるのです。
減るとすれば社長の数だけでしょう。
経営者からすれば、無理に賃上げするよりも、安く人を使って利益を
出せる方が楽ですし、社長の数も減らないので、現状維持が最も快適
でしょう。
経営者に任せていても再編・統合が進まない以上、国が主導するしか
ありません。
同様に、中小企業基本法の存在も生産性向上を阻んでいます。
従業員300人以下、小売業で50人以下を中小企業と定義し、手厚い優遇策を
施してきたこの法律によって、規模を拡大できるのに優遇目当てで従業員を
意図的に増やさず、小規模のまま経営を続ける企業が多く生まれました。
検証と分析
もちろん、大企業より生産性が高い中小企業もあります。ただ、それを
一般化して中小企業を「日本の宝」だと美化し、生産性の低さについて
正面から議論することをタブー視する風潮は問題です。
今こそ、客観的な検証と徹底的な要因分析が必要なのです。
日本企業は技術力が高く、人材も優秀で勤勉です。
国際的な評価はトップクラスなのに、最低賃金や労働生産性が低いのは
不幸なことです。
日本には近い将来、南海トラフ地震と首都直下地震という危機が想定さ
れています。
低い生産性のまま、1000兆円超の借金を抱えた国に大規模災害が直撃
すれば、国家として二度と立ち直れなくなるかもしれません。
政府には、中小企業の枠を改め、生産性向上と経済成長を促す制度整備に
一日も早く着手して貰いたいです。
最低賃金上げ「地方が衰退」
公益財団法人「日本生産性本部」の統計によると、2019年の日本の一人
当たりの労働生産性は8万1183ドル(857万円)で、経済協力開発機構(OECD)
加盟37か国で26位、先進7か国では最下位だった。1時間当たりの生産性も
47.9ドル(5059円)で、先進7か国で最下位となっている。
中小企業の再編による生産性向上の必要性が指摘される一方、コロナ禍に
伴う経営環境の悪化で、性急に最低賃金を引き上げれば、多くの中小企業で
経営が立ちゆかなくなるとの声も上がっている。
日本商工会議所の三村明夫会頭は、東京や大阪など大都市を除いた雇用に
占める中小企業の割合は8割超に上ると指摘。
「小規模企業の減少は都市への雇用流出につながり、地方の衰退を加速
させる」と述べ、「再編ありき」の議論に警鐘を鳴らしている。
✳️ OECD加盟国の1人当たりの労働生産性(2019年時点)
一部の国を抜粋。丸数字は順位
① アイルランド 18万7745ドル
② ルクセンブルク 16万1681
③ 米国 13万6051
⑦ フランス 12万1987
⑬ ドイツ 11万355
⑭ オーストラリア 11万285
⑯ イタリア 10万4631
⑰ カナダ 10万1277
⑲ 英国 9万9642
㉓ トルコ 8万3591
㉔ 韓国 8万2252
㉖ 日本 8万1183
□ 最低賃金
労働者の生活安定のため都道府県ごとに決められる賃金の下限額。
経済状況などに応じて毎年見直され、パート社員や派遣社員などを含む
全ての労働者が対象となる。
労使代表と有識者でつくる中央最低賃金審議会が改定の目安を示し、地方
最低賃金審議会を経て各都道府県の水準が決まる。
□ 警鐘(けいしょう)
火災・洪水などの、警戒を促すために鳴らす鐘。「警鐘を打ち鳴らす」
危険を予告し、警戒を促すもの。警告。「現代社会への警鐘」
いかがでしたか。
これからも、参考になる情報がありましたら、ご紹介したいと思います。
2012.1.14
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美