田中角栄「上司の心得」2-⑮
● ウルサ型を参らせた「詫び状」の威力
第3章で、「親分」たる要諦の一つは〝素直さ〟にあることを指摘した。
時に、部下の指摘が正鵠を得ていた場合、素直に聞く耳を持てるか、
速やかに詫びることができるか、強いばかりが男じゃないという好例が
ある。
田中角栄が自ら頭を下げ、「詫び状」という手段を使って相手を虜にして
しまったのは、まだ40代の初めのことであった。
すでに郵政大臣を経、自民党副幹事長として岸信介内閣の日米安保条約
改定に馬力を発揮したあと、第2次池田勇人内閣下で党の水資源開発特別
委員長のポストにあったときであった。
水資源はダムの建設など各省庁の利害が複雑に絡むことから、委員長の
采配は難しい。案の定というべきか、建設省色の強い田中角栄委員長の
采配に、「農林族」からクレームがついたのだった。
ついには、激高した当時の「農林族」の大ボスだった重政誠之が乗り出し、
田中とつかみかからんばかりのやり取りとなったのだった。
それから、数日後、この重政のものに、田中から巻紙の和紙に墨鮮やか、
次のような内容の「詫び状」が届いたのだった。
「先輩に対する暴言、非礼を、心からお詫びさせて頂きたい。
ただ、これもこの国の水資源の必要性を感じたがためのものであったと、
何卒ご理解いただければと存じます」
● 要諦
物事の最も大切なところ。肝心かなめの点。
ようたい。「処世の要諦」
● 正鵠(せいこく)
1. 弓の的の中心にある黒点。
2. 物事の急所・要点。
● 采配
指図。指揮。「―をとる」
● 案の定
予想していたとおりに事が運ぶさま。果たして。「案の定失敗した」
● 激高
感情がひどく高ぶること。ひどく怒ること。
げっこう。「―して机を叩く」
● 暴言
暴言(ぼうげん)とは、他を傷つける意図がある言葉。
乱暴な言葉。 悪口。
● 非礼
礼儀にそむくこと。また、そのさま。「非礼をわびる」「非礼な言動」
この続きは、次回に。