実践するドラッカー[思考編] ㉗
A lesson from P.F.Drucker
∵ フィードバック分析を使う
強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。
何かをすることに決めたならば、何を期待するかを直ちに書き留めて
おかなければならない。
そして九カ月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合しなければ
ならない。
『明日を支配するもの』—p.194
ドラッカー教授は、強みや弱み、得意な仕事の仕方を知る有力な方法と
してフィードバック分析を用いました。以前実践していたこの方法を思い
出したのは、三六歳の頃でした。原点は二つあります。
一つは、近世初期のイエズス会の修道士やカルヴァン派の牧師の習慣です。
当時彼らは、重要な決定を下す際、期待する結果を予め書きとめておき、
一定期間経ったあとで、実際の結果と比較していたそうです。
もう一つが、本書七三ページのエピソードにあったように、若き日の
ドラッカー教授が、当時の上司である新聞社の編集長から、定期的に
仕事を振り返る指導を受けたことでした。
これらの方法を通じて、「自らの強みは何か」「強みをいかにして強化
するか」「自分にできないのは何か」を知ることができるようになったと
いいます。
以来、ドラッカー教授は五○年以上にわたり、これらの質問に対する答えを
事前に書きとめておき、実際の結果との差を検証することに習慣としました。
フィードバック分析を二、三年も続ければ、自ずと強みがわかってくる
のだそうです。記憶より、記録がものをいうということです。
● フィードバック分析
自分の強みを知る代表的な方法が、フィードバック分析である。
フィードバック分析は自分の強みを発見するために、ドラッカー自身が
自らに課していた方法だった。
『プロフェッショナルの条件』で彼は次のように述べている。
「強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。何かを
することに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。
九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。私自身、これを
50年続けている。そのたびに驚かされている。これを行うならば誰もが
同じように驚かされる」
フィードバック分析とは何だろうか。簡単である。
自分の目標を紙に書きとめておき、9か月〜12か月たってから見直してみる。
できたことにはいっそう力を入れていき、できなかったことはやめてしまう。
フィードバックの主体は「われわれ」に置かれている。
鍵を握るのは、対話の相手すなわち、聞き手である。
そのために、ドラッカーの行う診断つまりコンサルティングなども、
対話から始められるものだった。
コラム 強みを知る方法
自らの強みを知るには、なかなか大変な作業です。
ご参考までに、筆者(佐藤)が実践していた例をご紹介します。
—-ファイブ・ストレングス・ファインダー(F・S・F)を利用する
F・S・Fという著名な診断方法に従うと、自分の強みのベストファイブが
浮かび上がってきます(マーカス・バッキンガムほか著『さあ、才能(じさん)に
目覚めよう』)。
これに則って筆者自身を診断してみたところ、「着想」「戦略性」「学習塾」
「収集心」「包含(他者を受け入れる、仲間とする)」の五つの資質がある
ことがわかります。
● ファイブ・ストレングス・ファインダー
ストレングス・ファインダーとはアメリカのギャラップ社が開発した
「自己診断ツール」です。ネット上で177個の質問に答えることで「自分の
強みとなりうる資質」を客観的に知ることができます。
資質は34個に分類され、その中の上位5つが「あなたの強みの資質」に
なります。2020/02/02
—-実際の行動とリンクさせる
それ以来、どのようにすれば、仕事でこれらの強みを使えるようになる
かを実験しています。例えば、こんな感じです。
・「学習欲」と「包含」
ドラッカー教授の教えを自分自身がより深く理解するため、また、その
輪を広げていくため、二○○三年からドラッカー作品の「読書会」を開始し、
二五○回を超えてなお続けています。
・「着想」と「収集心」
二○○四年からブログを開始。ドラッカー教授の言葉の収集とカテゴリー
づくりに生かしています。たとえば「ドラッカー流チェックリスト」と
いうカテゴリーでは、ドラッカー教授の著書から二○○を超えるチェック
リストを作成しました。
強みに根ざした行動は、楽しいので長続きします。
分野を集中することで、成果も上がりやすくなるのです。
こうした実験でわかることは、強みは弱みにもなるということです。
筆者の五つの資質にも、同じことがいえます。
例えば、「戦略性」という資質は、情報収集では網羅性を好む方向に
現れます。もう少し情報を集めようと粘るために、意思決定に時間が
かかってしまうことがしばしばあります。
また、「着想」「学習欲」「収集心」「包含」は、いずれも成果に対し
拡散的で、非効率になりやすい欠点を持っています。ですので、筆者の
場合は、残り一つの「戦略性」という資質を強めに意識して、ゴールに
向けて集約的に行動するよう努めることで欠点をカバーしていく、といった
ことが必要となります。
ほかにも、強みを把握するには、さまざまな方法があります。
いずれにせよ、まずは自分自身の強みをしっかりと把握し、仕事やその
局面でどう使うのが有効かを意識することが大切です。
● 収集心
「情報を集めストックしておけば、いつか何かしら役に立つだろう…」
との感覚で幅広く情報を集めるのが「収集心」です。2021/02/14
● 包含(ほうがん)
つつみこみ、中にふくんでいること。「幾多の問題を包含する」
この続きは、次回に。