「人を動かす人」になれ! ㉟
39.成績よりも、トップのポリシーに共感できる人を使え
もちろん一部の例外はあるが、学校の成績と仕事のうえでの能力はイコール
ではない。わが社では、これまで二○年余りの間に一○○○名以上の新卒社員
を採用してきたが、この経験からも確信を持って断言できる。
先にも紹介した大声試験や早飯試験、便所掃除試験などを実施したときに、
応募者から預かった成績表は、封を開けずにそのまま金庫に入れて保管した。
そして二年後に取り出してみたのだが、結果からいうと成績の優秀な人を
ずいぶん不採用にしていた。逆に、成績表を見て採用を決めたのであれば、
真っ先に落としていたであろう人物が、多数入社してきていたのである。
「○○君は実によく頑張ってくれています。営業成績もずば抜けているし、
最近は技術の勉強も熱心にやっています」と上司から報告を受ける当人の
学生時代の成績が、こんな見るも無残なものだったとは—-。
このような信じられないことの連続であった。
要するに、わが社にとっては第三者の評価である学校の成績を基準に
するのではなく、経営者のポリシー、つまりわたし自身の考えにした
がって採用の基準を絞り込み、このベクトルに採用する人材を合わせ
ようとしたのだ。
もう少し正確にいえば、こういう人を入れたいというよりは、こういう
人には来てもらいたくないという人物を最初からオミットしてしまおうと
考えた結果が大声試験であり早飯試験だったのである。
「えっ、もう一度いってくれ。よく聞こえなかった」といわれる人や
人前で自分の考えをはっきりと主張できない人はわが社にはいらない。
何をするにものんびりしていてほかの人の何倍も時間がかかるというのも、
わが社には合わないタイプだという発想だった。
しかし、この採用法には意外な効能があった。当初は気づかなかったの
だが、何年も同じような発想で採用を繰り返していくと、基本的な考え方や
行動の仕方に共通点のある人材が多く集まってくる。
考え方や行動する原点が似通っているので、必然的にそうなっていくので
ある。もちろん、人それぞれに考え方も個性も違っているのだが、クロス
オーバーする部分が大きければ大きいほど、短時間で通じ合うことができる。
そこそこ成績がよくて、柔軟性があり、国際感覚を備えていて、チャレンジ
精神も旺盛。こんな幻想に近い採用基準を設けるよりも、「社長のポリシー
に共感できる人」とした方が、はるかに大きな戦力になるはずだ。
● ポリシー(policy)
2. 事を行う際の方針。「プライバシー―」「行動に―がない」
● ベクトル
方向性をもつ力。物事の向かう方向と勢い。
「各省庁間の―の大小を比較する」「彼とは―が合う」
「組織内の各人がばらばらに―を立てる」
● オミット(omit)
除外すること。省くこと。「名簿から―する」「違反者を―する」
● クロスオーバー(cross over)
異なる分野の物事を組み合わせて新しい物事を作り出すこと。
「歌舞伎とミュージカルとを―させた作品」
● 柔軟性
1. やわらかく、しなやかな性質。「関節の―を高める体操」
2. その場に応じた適切な判断ができること。
さまざまな状況に対応できること。
「―のある思考」「―を備えた組織」
● 旺盛
活動力が非常に盛んであること。また、そのさま。「―な好奇心」
● 幻想
現実にはないことをあるかのように心に思い描くこと。また、そのような
想念。「―を抱く」「戦争のない未来を―する」
この続きは、次回に。