「人を動かす人」になれ! ㊶
45.人に動かされるのがうまい人は、人を動かすのもうまい
「使い上手は使われる上手」という言葉がある。
要するに、人をうまく動かそうと思えば、自ら率先して人のために動か
なくてはいけないということである。わたしもこれまでに多くの社員と
接してきて思うのだが、若いときから気働きのきくという人物がいる。
数は少ない(二○人に一人ぐらい)が、彼らは上司が指示を出す前にそれを
先読みしてタイミングよく物事を提案してくる。
たとえば、毎年一○月に品質をテーマにした社内キャンペーンをやって
いるとすると、夏の休暇前には「今年はこんな企画ではどうでしょうか」
と過去の資料とともに、新しいプランを上司に提出する。
また、営業のあるグループが新しく大手のユーザーにアプローチすることが
決まり、二、三日後に責任者が「例のアタック先の詳細なデータをまとめ
たいのだが」と切り出すと、「マーケティングのデータについては、ほぼ
でき上がっているので今日中に提出します。実際の攻め方については—–」
といった答えがすでに準備できている。
こうした社員は、上司の指示を受けてから指示待ち族の一○倍以上の評価に
値する。なぜなら、彼らは優秀な管理者になる条件を身につけていると
同時に、経営者になるための基本的な資質である主体性を備えているからだ。
反対に、指示を仰がなければ動けないような人物は、絶対に経営者には
なれないということである。
話が少し脇道にそれてしまったが、人のために動ける人というのは、例外
なく人を動かすのもうまい。人のために動くといってはいるが、実際は
自分の考え方を通したいと思っている上昇志向の強い人物のことである。
すなわち、上司から指示を受ければ、全面的にその指示に従わねばなら
ない。だが、言われる前にやれば、かなりの部分で自分の裁量が発揮できる。
この自分の考えを通したいという気持ちが、上司、部下を問わず相手に
対する説得力につながり、結果的に人が動くのである。
もう一つ、主体的に人のために動いてきた人は、どういう言い方や態度を
とれば気持ちよく人が動くのかを、自分の経験と照らし合わせてみることが
できる。自分にできないことを命令したり、イヤなことを押しつけられ
れば反発したくなるのが人間の心理だ。こんなことも経験からわかって
いる。
水は上から下にしか流れない。これと同じ理屈で上昇志向を持っている
人には人を動かすエネルギーが生まれるが、上昇志向の希薄な人にはこの
エネルギーは生まれない。
● 率先
ひとの先に立って事を行うこと。進んで事をすること。
「―して手伝う」
● 気働き
その場に応じて、よく気が利くこと。機転。
「お仁好 (ひとよし) と言うばかりで、―のあるじゃ無し」
● 主体性
自分の意志・判断で行動しようとする態度。
「―のない人」「―をもって仕事に取り組む」
● 上昇志向
自分の能力や生活水準、社会的地位などを常に高めようとする考え。
「―が強い人」
● 裁量
その人の考えによって判断し、処理すること。
「君の―に任せる」「店の経営を一人で―する」
● 希薄
ある要素の乏しいこと。物事に向かう気持ち・意欲などの弱いこと。
また、そのさま。「問題意識が―だ」
この続きは、次回に。