「人を動かす人」になれ! ㊿+16
69.つぶれる会社、つぶれない会社—わずかな意識の差が、将来の明暗を分ける。
以前に、わが社がM&Aで傘下に収めた会社の社員全員にアンケートを
実施したことがあった。最初の質問は「あなたは、これまでに会社が
つぶれると思ったことがありますか?」だったが、「イエス」という
回答はゼロであった。
次の「では、なぜつぶれないと思っていたのですか?」という質問の九○
パーセント以上の回答が、「超大手企業の系列会社だから」というもの
だった。
このようなエピソードを紹介したのは、経営者や社員が絶対につぶれないと
思っている会社ほどつぶれる可能性が高いという事実を紹介したかった
からだ。山一證券や北海道拓殖銀行が倒産したときも、内情のわかって
いる一部の経営陣を除いて、従業員全員が「まさか」「信じられない」
「寝耳に水」といった反応を示した。すなわち、誰もが潰れるとは考えて
いなかったために油断が生じ、怠け心を芽生えさせて、倒産へと走らせた
のである。
反対に、社員の一人一人に「こんな品質の商品をつくっていると会社は
つぶれる」「こんな時代遅れの商品の売り方では会社はつぶれる」という
意識が徹底されている会社の倒産する確率は格段に低くなる。
煎じ詰めていけば、社員教育の目的はここに集約されるといっても過言
ではない。
わたしは、さっそく先ほどの会社の幹部社員を招集して、次のような話を
した。
「皆さんは出張や家族旅行でホテルに泊まる機会も多いと思うが、最近の
ホテルのドアはどこも自動ロックになっている。これは、自動ロックの
メーカーの人に聞いた話だが、あのロックも人間がつくり出したものだ
から一○○パーセント完璧ではない。何百回、何千回かに一回ぐらいの
割合でロックされない場合がある。
この話を聞いて、コンマ何パーセントの話なんだから、目くじらを立てる
ことはないと考える人がこのなかにいたなら、会社はもう一度倒産する。
反対に、これからは気をつけて、念のためにロックを確認しようという
人ばかりなら、倒産の方が逃げていってしまうはずだ」
ほんのわずかな意識の差が、将来の明暗を大きく分けてしまうのだ。
こう考えていくと、人を動かすのはそれほどむずかしいことではない。
意識を少しだけ変えることによって、当たり前でなかったことを当たり
前にして、次からはそれを当たり前にやらせるようにすれば良い。
必要なのは、その当たり前のことが何かを見つけ、うまく相手に伝える
表現力さえ身につければ、必ず人は動かせるのである。
● 内情
内部の事情。内部の状況。「業界の―にくわしい」⇔外情。
● 寝耳(ねみみ)に水(みず)
《「寝耳に水の入るごとし」の略》不意の出来事や知らせに驚くことの
たとえ。「―の話」
● 煎じ詰める
「煎じ詰める」は、成分、滋養などが出切るまで煮つめる意。
また、転じて、「煎じ詰めて言えば…」のように、行きつくところまで
押し進める意もある。
● 集約
物事を整理して、一つにまとめること。
「調査結果を―する」「反論はこの一点に―される」
● 目くじら
目尻。目角 (めかど) 。また、怒った目つき。
この続きは、次回に。