「人を動かす人」になれ! ㊿+17
70.チームワークばかり叩き込むと、決断力、指導力がにぶる。
現在のわたしが最も関心を抱いているのは、本物のプロの経営者をつくる、
すなわち決断力、判断力、指導力で人を動かせる強力なリーダーを育てて
いくことだ。
わが社の長期ビジョンは、二○一○年に売上高一兆円、社員数一○万人を
達成することだが、わたし一人ではとても一○万人もの社員をコントロールし、
動かしていくことはできない。当然いくつもの組織に分けて、ということに
なるが、この組織のリーダーにプロの経営者としての能力や自覚が備わって
いなければ、長期ビジョンも絵に描いた餅になってしまう。
そこでつくづく感じるのは、日本の社会のなかにプロの経営者を育成する
仕組みがまったく根づいていないということだ。
アメリカの経済に底力があるのは、有名なビジネススクールのなかに
マネジメントの専門コースがあり、経営者をつくるためだけの教育を
行なっているためであろう。
ここで教育を受けた卒業生は、いきなり会社の経営を任せられるほどの
権威がある。
日本にはそういったスクールはないし、超大手企業にも管理職を育てる
仕組みはあっても、経営者を育てる仕組みはない。
一流の大学を出た優秀な人材に、長期にわたって御用聞きのような外回りを
させたり、チームワークや協調性の重要性ばかりを叩き込む。
しかし、経営者に必要なのは決断力、判断力、指導力などであって、
これはチームワークや協調性とは対極をなすものである。
二○歳代、三○代にチームワークや協調性を身につけてしまった人間が、
四○歳代、五○歳代になって、これまでのやり方や発想から一八○度転換
せよといってみても、そうそうできるものではない。
唯一、官僚制度のなかにそうした仕組みがある。
たとえば、大蔵省のキャリアと呼ばれる人たちは入省して五年もすると
いきなり税務署長に抜擢され、その後も二、三年のサイクルで主要ポストを
歴任する。いわば若いうちから英才実践教育を受け続ける。
これがあるからこそエリート官僚は政策立案能力を身につけ、日本が
アメリカと肩を並べる経済大国となる索引役を果たしてきたのである。
官僚制度全体にはいろいろと批判もあるようだが、わたしはこの仕組みに
かぎっていえば必要不可欠なものだと思う。
わが社もこれに似た仕組みをつくり、時間も投資も惜しまずにかけて、
わたしの分身となるべきプロの経営者を育ててきた。
まだ人数は数名にすぎないが、今後はテンポアップと、さらなる拡充を
図っていく。
● 絵に描いた餅
《どんなに巧みに描いてあっても食べられないところから》何の役にも
立たないもの。また、実物・本物でなければ何の値打ちもないこと。
画餅 がべい 。
[補説]「絵に描いたよう」と混同して「絵に描いたような餅」とするのは
誤り。
● 御用聞き
1. 商店などで、得意先の用事・注文などを聞いて回ること。
また、その人。「酒屋の―」
2. 《政府の公用を承る者の意から》江戸時代、官から十手・捕縄を預かり、
犯人の捜査・逮捕に当たった民間の者。岡っ引き。目明かし。
● 索引役(けんいんやく)
人の先頭に立ち、組織や集団を進むべき方向へと導く人のこと。
この続きは、次回に。