「人を動かす人」になれ! ㊿+18
71.自分の考え方を完全に理解してくれる分身をどうつくるか。
「新幹線は渡り廊下、飛行機はかけ橋」
こんな表現も決してオーバーではないかと思う。
現場、現物主義のわたしが自宅にもどれるのは一ヵ月のうち一週間程度、
残りの三週間余りはホテル暮らしである。つまり一ヵ月のうちの三週間
以上は海外、国内を問わずどこかへ出張していることになる。
裏を返せば、本社をそれだけ留守にしておいても安心していられる。
すなわち、わたしの考え方、思想を完全に理解してくれる分身が育った
ということである。
彼らは一年に一、二回ほど顔を合わせるだけ、あとは電話で方向性さえ
示しておけば、余計なことは何もいわなくても、ほぼわたしの考え通りに
物事が進んでいく。〝一を聞いて十を知る〟という言葉があるが、その一
さえいう必要もない。
これは、いまわたしが再建会社で熱っぽく語っているのとまったく同じ
話を、二○年以上にわたって言い続けてきたことが最大の理由だが、ただ
それだけでは経営者は育たない。同じ話を繰り返し聞かせるだけで、
経営者が育つのであれば、テープレコーダーが経営者を育てる天才だと
いうことになる。
わたしの経験からいえば、一人の経営者をつくろうと思えば、最低一○年の
歳月と一○億円の投資が必要となる。
経営は理屈ではない。まず理論から入らなければならないのは確かだが、
実践の伴わない理屈は、それこそ空理空論に終わる。
そこでわたしは、入社一○年目ぐらいの「これぞ」と感じた社員に実践
させるのである。具体的には、子会社の経営を任せたり、新しく会社を
つくらせる。この段階になれば、それこそ辛抱と忍耐の虫にならなければ
ならない。
たとえば、「これでは三ヵ月も経たないうちに赤字になる」「この問題を
放置しておけば早晩どこかで座礁する」と思っていても、一切口出しは
せずに黙って見守る。やがて失敗が表面化する。
ここではじめて、失敗したのはどこに問題があったのか、どういった対策を
とっておけば失敗が防げたのか、今度はこうした失敗の教訓を理屈で
解きほぐしていく。
これを約一○年繰り返す。損失額もトータルで一○億円ぐらいは覚悟する
必要がある。いまのような学校教育と家庭教育で育った社員を、充分に
投資もしないで、順送りの人事だけで、自分の分身といえるようなプロの
経営者をつくることは不可能だ。かつてのような高度経済成長の時代なら
いぞ知らず、二一世紀にこれができていなければ、創業者一代で会社は
終わる。
● 一を聞いて十を知る
ものごとの一端を聞いただけで全体を理解できる、ということ。
非常に賢くて理解がはやいことのたとえ。
● 空理空論
実際からかけ離れている役に立たない考えや理論。
▽「空理」「空論」はともに、実状や現実を考えない役に立たない理論や
議論。 ほぼ同意の熟語を重ねて意味を強めた語。
● 順送り
順を追って次へ送ること。「会報を―に回す」「日程を―にする」
この続きは、次回に。