お問い合せ

ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」⑭

□ エグゼクティブとは

 

今日の組織では、自らの知識あるいは地位のゆえに組織の活動や業績に

実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである。

組織の活動や業績とは、企業の場合、新製品を出すことであり、市場で

大きなシェアを獲得することである。

病院の場合は患者に優れた医療サービスを提供することである。

組織のそのような能力に実質的な影響を及ぼすために、知識労働者は意思

決定をしなければならない。命令に従って行動すればよいというわけには

いかない。自らの貢献について責任を負わなければならない。

自らが責任を負うものについては、自らの知識によってほかの誰よりも

適切に意思決定をしなければならない。時には、せっかくの意思決定が

認められないことがあるかもしれない。降格されたり、解雇されたりする

ことがあるかもしれない。だがその仕事をしているかぎり、目標や基準や

貢献は自らの手の中にある。

したがって経営管理者のほとんどがエグゼクティブである。しかし現代

社会では、経営管理者ではない者の多くもまたエグゼクティブである。

知識中心の組織すなわち知識組織においては、最近明らかになっている

ように、責任ある地位、意思決定を行う地位、意思決定を行う地位、権限を

保つ地位に、経営管理者だけでなく、独自の貢献を行う専門家が必要と

されるようになっているからである。

このことは、ベトナムのジャングルにおける若い歩兵大尉へのインタビュー

からもうかがえる。

 

「この混乱した状況でどう指揮しているか」との質問に対する答えがこう

だった。「ここでは、責任者は私である。しかし部下がジャングルで敵と

遭遇し、どうしてよいかわからなくとも、何もしてやれない。私の仕事は、

そうした場合どうしたらよいかを予め教えておくことだ。

実際にどうするかは状況次第である。その状況は彼らにしか判断できない。

責任は私にある。だが、どうするかを決められたのはその場にいる者だけだ」

 

このように、ゲリラ戦では兵士全員がエグゼクティブである。

経営管理者の中には、エグゼクティブでない者も大勢いる。

すなわち、組織の中には、部下、しかもかなり多くの部下をもちながら、

組織全体の成績に重大な影響を及ぼさない人たちがいる。

工場の現場管理者の大部分がこの範疇に入る。

彼らは文字どおり現場管理者にすぎない。他人の仕事を管理するという

意味においての経営管理者である。部下の仕事の方向づけや範囲、仕事の

質や方法については何らの責任も権限もない。そして彼ら現場管理者自身の

仕事ぶりの評価も、主として、能率や量、すなわち肉体労働者の仕事や

その成績を測定評価するために開発された基準によって行われている。

すなわち、知識労働者がエグゼクティブであるかどうかは、他人を管理

しているか否かには関係ない。

ある企業では、市場調査の責任者がスタッフとして二○○人の部下を持って

いる。ところが競争相手の企業では、市場調査の責任者は秘書を一人もつ

だけかもしれない。しかしこの違いは、期待される貢献の違いを意味したり

しない。そのような違いは組織上の些事にすぎない。

もちろん二○○人いれば、一人よりも多くの仕事ができる。

しかしその結果、より生産的であり、より貢献できるというわけではない。

知識労働者は量によって規定されるものではない。コストによって規定

されるものでもない。成果によって規定されるものである。

部下の数や管理的な仕事の大きさは、知識労働の内容を知る手がかりには

ならない。

 

● 些事(さじ)

 

取るに足らないつまらないこと。ささいなこと。小事。「―にこだわる」

 

この続きは、次回に。

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