ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」⑲
成果をあげにくくしている第三の現実が、組織で働いていることである。
すなわちほかの者が彼の貢献を利用してくれるときにのみ、成果をあげる
ことができるという現実がある。
組織は一人ひとりの人の強みを発揮させるための仕組みである。
組織は一人ひとりの人の知識を、ほかの人の資源や動機やビジョンとして
使う。
知識労働者は、まさに知識労働者であるがゆえに互いに似ていることさえ
ない。技能も関心も違う。同じ市の職員であっても税務、細菌学、幹部の
専門家がいる。原価計算、病院管理、市条例の専門家がいる。
彼らのいずれもが、互いに同僚の生み出すものを利用する能力がなければ
ならない。
通常、成果をあげるうえで最も重要な人間は直接の部下ではない。
他の分野の人、組織図上では横の関係にある人である。あるいは上司で
ある。それらの人と関わりをもち自らの貢献を利用してもらい成果に
結びつけてもらわなければ、いかなる成果もあげられない。
そして最後に、組織の内なる世界にいるという現実がある。
企業、政府機関、研究所、大学、軍のいずれにおいてであろうと、誰もが
自らの属する組織の内部を最も身近で直接的な現実として見る。
たとえ組織の外を見たとしても、厚くゆがんだレンズを通して見ている。
外の世界で何が起こっているかは直接には知りえない。
しかも外の世界の現実は、組織の中の基準にも咀嚼され、報告書という
高度に抽象化されたフィルターを通して知らされる。
しかも、組織そのものが機能的な存在である。大きさも広がりもない存在で
ある。大組織であっても、現実の世界に比べればその存在ははるかに
希薄である。
特に重要なこととして、組織の中に成果は存在しない。すべての成果は
外にある。企業の場合、顧客が製品やサービスを購入し、企業の努力と
コストを収入と利益に変えてくれるからこそ、組織としての成果がある。
顧客は、市場の需給関係のもとに意思決定を行う自由経済下の消費者で
あることもあれば、非経済的な価値判断に基づいて意思決定を行い需給を
規定する社会主義政府であることもある。
しかし、いずれの場合も、意思決定を行う者は企業の内部ではなく外部に
いる。同じように、病院は患者がいて初めて成果を得る。しかも患者は、
病院組織の一員ではない。患者にとって病院は、入院している間のみ実在
する。できるだけ早く病院のない世界に戻ることこそ、患者にとって最大の
望みである。
この続きは、次回に。