ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」⑳
組織の中に生じるものは努力とコストだけである。
プロフィットセンターなるものは言葉のあやにすぎない。
内部にはコストセンターがあるだけである。
組織は、一定の業績を得るために投入した努力が少ないほどよい仕事を
したことになる。市場が求める自動車や鉄鋼を生産するために一○万人が
働いているということは、実のところエンジニアリング上の未熟を示すに
すぎない。
外の世界への奉仕という組織にとっての唯一の存在理由からして、人は
少ないほど、組織は小さいほど、組織の中の活動は少ないほど、組織の
完全に近づく。
そのような真の現実たる外部環境は、組織の内部からは有効なコントロール
しえない。せいぜい、戦争において戦況が両軍の行動や意思決定によって
動くように、外部の結果は他の主体との相互作用によって左右される
ぐらいのものである。
もちろん企業は、販売促進や広告宣伝によって、顧客の好みやトレンドを
方向づけようと努力はする。しかし、戦時経済のような極度の物資不足の時期を
除き、最終的な決定権、拒否権をもつのは、あくまでも顧客である(そして
このことこそ、あらゆる共産主義国家の経済が、極度の窮乏状態から
脱するや、諸々の問題に直面するようになった理由である)。
だがエグゼクティブの目に最もよく見える者は、常に組織の内部の世界で
ある。また急を要するものが存在するのも、組織の内部の世界である。
常に耳にするものは、組織内部の人間関係や摩擦、問題や課題、反対や
噂である。
したがってエグゼクティブたる者は、外部の現実の世界に直接触れるべく
特別の努力を払わないかぎり、組織の内部に焦点を合わせることとなる。
しかも地位が上がるほど、外部の出来事よりも内部の問題に注意が向く。
社会的存在としての組織は、生物の組織とはまったく異なる。
しかし大きさと構造との関係については、人間関係も動植物と同じ法則に
従う。すなわち、表面積は半径の二乗で増加し、体積は三乗で増加する。
したがって、動物は大きくなるほど、体そのものの維持のためと体の内部の
機能、すなわち循環や神経などで働きのために多くの資源を吸収しなければ
ならなくなる。
これに対しアメーバは、外部環境と不断かつ直接の接触をもつ。
外部を知覚し自らの体の一体性を保持するための器官は、何一つ必要と
しない。しかし人間のような大きく複雑な動物は体を維持するための骨格を
必要とする。消化、吸収、呼吸、生殖など専門化された多様な器官を必要と
する。そして何にも増して頭脳と神経組織を必要とする。
アメーバは、ほとんどあらゆる部分が生存と増殖に直接の関わりをもつ。
しかし高等動物の体は、まず何よりも、自らの構造上の複雑さや外部との
隔絶によってもたらされる困難を補い克服するために奉仕しなければ
ならない。
● プロフィット
プロフィットという単語は、「利益」や「収益」という意味を持ちます。
ビジネスにおいては、プロフィットセンターは「利益を生み出す部門」を
指して使われる用語です。
● ことば‐の‐あや【言葉の×綾】
微妙な意味あいを表したり、事のついでに付け加えたりする、巧みな
言葉の言い回し。「―でそう言ったまでだ」
● トレンド(trend)
傾向。趨勢 (すうせい) 。ファッションの流行や経済変動の動向など。
● アメーバ(amoeba)
肉質類の原生動物の総称。単細胞で、大きさは0.02~0.5ミリ。
増殖は分裂による。たえず形を変えて、仮足とよばれる原形質の突起を
伸ばして運動・捕食する。淡水・海水・土壌中に広くすみ、また寄生性で
病原性をもつものもある。アミーバ。
この続きは、次回に。