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ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㉑

組織は存在することが目的ではない。種の永続が成功ではない。

その点が動物と違う。組織は社会の機関である。

外の環境に対する貢献が目的である。しかるに組織が成長するほど、特に

成功するほど、組織の働く者の関心、努力、能力は組織の中のことで占領

され、外の世界における本来の任務と成果を忘れていく。

この危険は、コンピュータとIT(情報技術)の発達によってさらに増大する。

愚鈍な機械コンピュータは定量的なデータを処理するだけである。

データを非常な速さ、正確さ、精密さをもって処理する。

これまで不可能だった大量のデータを提供する。しかし大体において、

速く定量化できるデータというものは、組織の内部についてのデータで

ある。コストや生産量、教育訓練の報告である。外の重要なことは、

もはや手遅れという時期になるまで定量的な形では入手できない。

これは、外のことについての情報の収集がコンピュータの演算能力よりも

遅れているからではない。それだけが原因ならば統計的な努力を追加すれば

よい。まさにそのような技術的な制約を克服するうえでコンピュータは

大きな助けとなる。

根本的な問題は、組織にとって重要な意味をもつ外部の出来事が、多くの

場合、定性的であって定量化できないところにある。

それらはまだ事実となっていない。事実とはつまるところ、誰かが分類し、

レッテルを貼った出来事のことである。定量化のためにはコンセプトが

なければならない。そして無限の出来事の集積から特定の出来事を抽出し、

名称を与え、数えなければならない。

 

あのように多くの奇形児を生んだサリドマイド児が典型的な例だった。

ヨーロッパにおいては、医者たちが奇形児の誕生が異常に多いことに

気づくに十分な統計を手にしたときには、被害はすでに起こってしまって

いた。しかしアメリカでは、ある公衆衛生医が、それ自体は大した意味の

ない新薬による皮膚の痛みという定性的な問題をとらえ、新薬サリドマイド

の使用前に警鐘を鳴らしたことによって被害は食い止められた。

 

フォードの新車エドセルも同じ教訓を与えてくれる。エドセルの設計に

あたっては、当時手に入る定量的なデータはすべて集められた。

当然、生産されたエドセルは狙った市場において求められている車である

ことが数字によって示されていた。しかし、もはやアメリカでは、購入

する車種は所得ではなくライフスタイルによって決められるようになって

いたという定性的な変化は、いかなる統計も明らかにしていなかった。

その変化が数字としてわかるようになったときには、すでにエドセルは

売り出され、そして失敗していた。

 

● 愚鈍(ぐどん)

 

判断力・理解力がにぶいこと。頭が悪くのろまなこと。また、そのさま。

「二等と三等との区別さえも弁 (わきま) えない―な心が腹立たしかった」〈芥川・蜜柑〉

 

● 定量的

 

『定量』は、物事を数値や数量で表すことができる要素のこと。

『定量的』とは、物事を数値や数量に着目してとらえることを言います。

 

● 定性的

 

1. 性質に関するさま。ある物質にその成分が含まれるかどうかを表す

    場合などに用いる。「―検査」⇔定量的

2. 数値・数量で表せないさま。「人事の―評価」⇔定量的

 

● 警鐘(けいしょう)

 

1. 火災・洪水などの、警戒を促すために鳴らす鐘。「―を打ち鳴らす」

2. 危険を予告し、警戒を促すもの。警告。「現代社会への―」

 

 

この続きは、次回に。

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