ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㉒
外の世界における真に重要なことは趨勢ではない。趨勢の変化である。
この外の変化が組織とその努力と成功と失敗を決定する。
しかもそのような変化は知覚するものであって、定量化したり、定義したり、
分類したりするものではない。分類によって数字は得られるが、そのような
数字は現実の状況を反映していない。
コンピュータは論理の機械である。それが強みであり弱みである。
外の重要なことは、コンピュータをはじめとする何らかのシステムが処理
できるような形では把握できない。これに対し、人は論理的には優れて
いないが知覚的な存在である。まさにそれが強みである。
気をつけなければならないことは、コンピュータの論理や言語で表せない
情報や刺激を軽視することである。現実の知覚的な事象が見えなくなり、
過去の事象にのみ関心をもつようようになることである。
こうして膨大な量のコンピュータ情報が外の現実からの隔絶を招く。
マネジメントの用具たるべきコンピュータは、外の世界との隔絶を認識
させ、外の事象に多くの時間を割くことができるよう人を解放しなければ
ならない。しかし当面は進行性のコンピュータ病の危険が存在する。
それは深刻な病である。だがコンピュータは、昔から存在している状況を
浮き彫りにしたにすぎない。組織に働く者は、必然的に組織の中で仕事を
する。したがって意識的に外の世界を知覚すべく努力しなければ、やがて
内部の圧力によって外の世界が見えなくなる。
これらの四つの現実は変えることができない。
それらは避けることのできない状況である。したがって、成果を上げる
ことを学ぶべく特別の努力を払わないかぎり、成果はあげられないことを
知らなければならない。
● 趨勢
ある方向へと動く勢い。社会などの、全体の流れ。
「時代の―」「世の―を見極める」
● 隔絶
かけ離れていること。遠くへだたっていること。「社会から―した存在」
● 知覚
思慮分別をもって知ること。「物の道理を―する」
● 思慮分別
物事の道理や正邪・善悪などを注意深く判断すること。
また、その能力や判断。「―のある行動」
● 正邪(せいじゃ)
正しいことと、よこしまなこと。善と悪。「―曲直」
この続きは、次回に。