ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊽
もし経理部門の原価計算担当者が、右(上)のような問いを発しているならば、
彼らにとっては自明の理である仮定のうちの何が、他部門の管理者にとって
馴染みのないものであるかを簡単に知ることができるはずである。
経理の人間にとっては重要であっても、現業の人間には無意味な数字が
どの数字であり、経理の人間にとっては関心がなくとも、現行の人間には
毎日必要となる数字がどの数字であるかを知ることができるはずである。
製薬会社では、生化学者たちがこれらの問いを発しているならば、自分
たちの専門用語でなく臨床医にわかる言葉で説明することによって、
臨床医が自分たちの研究成果を利用できるようになることを簡単に知る
はずである。しかも彼らの研究成果が新薬として実を結ぶかどうかは、
臨床医たちがその新しい合成物を臨床実験にかけるかどうかにかかって
いる。
貢献に焦点を合わせることで、公立研究所の科学者は政策担当者に研究
開発がどのような成果をもたらすかを説明しなければならないことを知る。
さらに彼は、一般に科学者には禁じられていること、すなわち科学的な
研究の成果についての予測さえ行わなければならないことを知る。
● 自明の理
あれこれ説明する必要のない明白な道理。 それ自身で明らかな論理。
ゼネラリストについての意味ある唯一の定義は、「自らの知識を全領域に
正しく位置づけられる人」である。いくつかの複数の専門領域について
知識を持つ専門家もいる。だがたとえ複数の専門領域をもっていても
ゼネラリストとはいえない。単に、いくつかの専門領域のスペシャリストで
あるにすぎない。たとえ三つの領域に通じていても、一つにしか通じて
いない人と同じように偏狭でありうる。
しかし自らの貢献に責任を持つ者は、その狭い専門分野を真の全体に関係
づけることができる。もちろんたくさんの知識分野を統合するなどという
ことは決してできない。だが彼らは、自らの仕事の成果を生かしてもらう
には、ほかの人のニーズや方向、限界や認識を知らなければならないことを
理解する。
多様性の豊かさと興奮を味わうところまではいかなくとも、学者の傲慢さ、
すなわち知識を破壊し知識から美と成果を奪うあの進行性の病いに対する
免疫性を手に入れることはできる。
● ゼネラリスト
ゼネラリストとは保有している知識や技術、スキルが広範囲にわたる人の
こと。ジェネラリストという言葉も同義で使われています。
ゼネラリストの対義語はスペシャリストです。
● 偏狭(へんきょう)
自分だけの狭い考えにとらわれること。度量の小さいこと。
また、そのさま。狭量。「―な考え方」「―な性格」
● 免疫
この続きは、次回に。